2017 Fiscal Year Research-status Report
有機エピタキシーによりπスタック方向を制御した高移動度トランジスタ
Project/Area Number |
16K06296
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
小野島 紀夫 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (40500195)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ポリマーブレンド / 静電スプレー堆積法 / 自己組織化相分離 / 有機トランジスタ / 分子配向制御 / 結晶成長 / 核形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,有機半導体のπスタック方向を制御する有機エピタキシーにより高い移動度をもつ有機トランジスタ(OFET)を実現することである.我々はこれまでに,金ストライプ上に静電スプレー堆積(ESD)法を用いて有機半導体を堆積すると,有機分子の配列が規則正しく制御されるグラフォエピタキシー現象を発見している.しかし,ゲート絶縁膜の堆積後では有機分子の配列を制御できないことが分かり,この方法を用いて有機半導体活性層の分子配向を制御したOFETを作製するのは困難であると考えた. そこで我々は,ポリマー絶縁膜を有機半導体にブレンドして成膜する方法に着目した.昨年度の研究で,TIPS pentacene/PMMAのブレンド膜をESD法により成膜し,垂直方向相分離により有機半導体活性層とゲート絶縁膜のスタック構造が自己組織的に形成され,OFET動作することを実証した.しかし,相分離は溶媒蒸発の過程で進行するため,蒸発時間の短いESDプロセスでは相分離が不十分となり,電荷移動特性が低下することが分かった. そこでH29年度の研究では,ポリマーブレンドを高速相分離させるために,溶液作製に用いる溶媒や溶解させるポリマーの検討を行った結果,分子レベルで急峻な相分離界面を形成し,OFET特性を大幅に向上させることに成功した. また,アスペクト比10:1の微細マスクを用いてブレンド膜を成膜することで,結晶成長方向を制御できることを明らかにした.さらに結晶化メカニズムを詳しく調べた結果,ESD法では気相プロセスと同じように,1.微細液滴(分子クラスター)の拡散・融合,2.結晶核の形成,3.核からの結晶成長,という素過程で結晶が形成されることが分かった.このことから,核形成の位置を親/撥処理などにより制御することで分子配向のそろった結晶を形成できると期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究申請の当初は,金ストライプ構造を用いたグラフォエピタキシーにより,分子配向を制御して高性能なOFETの作製を目指していた.現在までの進捗状況は,当初の研究計画どおりではないが着実に進んでいると考えている.その理由は以下に述べるとおりである. H29年度の研究において,高速相分離により有機半導体/絶縁性ポリマーの分子レベルで急峻な相分離界面の形成方法を見出し,OFET特性を大幅に向上させることに成功した.また,ESD法による結晶化メカニズムを明らかにし,結晶成長の方向(分子配向)を制御できることを明らかにした.これらの研究成果より,結晶核の形成位置を制御して結晶の成長方向を制御すれば,πスタック方向が一様にそろった高性能なOFETを作製できると考えられる. H29年度の研究では,アスペクト比10:1の微細マスクを用いて結晶成長方向の制御を行っていたが,結晶核の発生がランダムであるため均一な特性をもつ高性能なOFETの作製は困難であると考えられる. そこでH30年度の研究では,基板表面の親/撥処理(親液性/撥液性のパターニング)およびESDプロセスに移動ステージを導入することにより,結晶核の形成位置を制御して基板の搬送方向に結晶を一様に成長させて,πスタック方向のそろった高性能なOFETを作製したいと考えている. このように,当初の研究計画どおりではないが,別のアプローチから研究目的である「有機半導体のπスタック方向を制御する有機エピタキシーにより高い移動度をもつOFETを実現すること」の達成に向けて取り組んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度は最終年度であり,研究目的の達成に向けてこれまでの研究成果の融合および新しい技術の導入を考えている.新しく取り入れる技術として,以下の2つを考えている. 1. コンベア式移動ステージを用いたESDプロセス 2. 親液性/撥液性のパターニング(親/撥処理) 1について,H29年度にESD装置の基板ステージをこれまでの固定型からベルトコンベア式移動ステージへの改造を行った.すでに,この移動ステージ上にブレンド膜を成膜できることを確かめている.2について,親液性処理としてUVオゾン処理,撥液性処理として自己組織化単分子膜(SAM)処理が広く知られているが,本研究では撥液性でゲート絶縁膜としても機能するフッ素系ポリマーCYTOPの成膜に着目する.これまでに,ESD法によるCYTOP単層の成膜を行っている.本研究では,親/撥処理により結晶核の形成位置を制御できるかが重要であるので,最適な親/撥処理条件およびESDプロセス条件を探索する. このように,これまでに本研究で達成した「高速相分離による高性能なブレンドOFETの作製」とH30年度に新しく取り入れる技術「コンベア式移動ステージを用いたESDプロセス」「親液性/撥液性のパターニング」を融合して,本研究の目的である「有機半導体のπスタック方向を制御する有機エピタキシーを用いた高い移動度をもつOFETを実現すること」に向けて取り組んでいく.
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Remarks |
山梨大学研究者総覧より
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