2017 Fiscal Year Research-status Report
ハイブリッド型気球を用いた山岳遭難者探索装置の開発
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16K06310
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Research Institution | Hokkaido University of Science |
Principal Investigator |
三橋 龍一 北海道科学大学, 工学部, 教授 (90254698)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 山岳遭難者 / サーモグラフィー / 電磁界強度 / マルチコプター / ドローン / 捜索 / 山岳連盟 / 過失責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度に試作に成功した赤色と近赤外の高解像度二眼式カメラを自作した大型マルチコプター(ドローン)に搭載して、昼夜の山岳部における遭難者の探索実験を行う予定であった。しかし、ドローンの飛行に関する法規制が厳しくなり、山岳部であっても研究の目的に沿って自作のドローンを飛行させることが困難になった。そこで、空撮用に一般販売されているドローンを使用するため、低解像度ではあるが超軽量な二眼式サーモグラフィとデータロガーを代用品として使用し、基礎実験を行った。 ドローンによる実験のため、研究代表者はドローン検定1級を取得し、さらにラジコン操縦士に登録し、様々な飛行訓練を行った。その結果、国交省より「人又は家屋の密集している地域の上空」・「夜間飛行」・「目視外飛行」・「人又は物件から30m以上の距離が確保できない飛行」の許可・承認が下りた。ただし、許可・承認は無人航空機(ドローン)の機体と操縦士の組となっているため、他の機体ではシリアル番号が異なっていても飛行させることができない。 実験の結果、夜間の雪上においては二眼式サーモグラフィの有効性を認めることはできたが、それ以外は通常のカメラと比較して優位点があるとは言えないことが明らかになった。そこで、山岳捜査の現場の責任者および海外を含めて多くの登山実績を持ち、遭難者の捜索にかかわり事故の調査を行ってきた山岳連盟の理事長と直接会って、一般には公表されていない実際の遭難事故に関する情報を得ることができた。その情報に基づいて、ドローンを用いて行ったフィールド実験の結果を取りまとめ、多くの学会発表を行った。 平成29年度の研究実績として最も大きかったことは、山岳遭難事故の捜索者と山岳連盟に所属する登山者から表には出ない情報を得たこととも考えられ、来年度以降の研究を遂行する上で、非常に有効であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究実施計画で主たる目標としてたことは、平成28年度に開発した二眼式カメラ(高解像度ハイブリッドカメラ)を大型のマルチコプター(ドローン)に搭載して空撮実験を行い、その有効性を確認することであった。主に法規制の壁で、そのカメラを搭載して実験を行うことができなかった。しかし、実験に必要なドローンの飛行にかかわる許可・承認を得ることができ、様々な空撮実験を行うことに成功した。 画像から遭難者を見つけ出すことは有効性が高いと考えていたが、捜索する側が公務員である場合には救助や捜索ミスと判断されると、たとえば北海道警察の場合には北海道が賠償責任などを負うことになる。このことは積丹岳遭難救助事故で、北海道警察が遭難者の搬送中に滑落して遭難者が死亡した事故で、最高裁判所が平成29年11月に出した判決で北海道の過失責任と賠償責任を認定したことにより鮮明になった。つまり、遭難者の発見を支援するシステムでは行政に採用してもらうことが困難であることを意味する。この事故に関する情報は山岳連盟理事長から直接得ることができ、実際の状況を知ることができた。また、山岳連盟では登山遭難死亡事故が発生した場合には現地調査をしており、その情報も得ることができた。これらの情報は法的な問題が発生する場合があることから一般には公開されていない。そのような現場の本当の情報を得ることができたのは、想定していなかった平成29年度の大きな成果である。 本研究では遭難者の発見を容易にする研究を想定していたが、平成29年度中に画像処理やAI技術を用いて自動抽出することまでの可能性の検討ができた。すでに、人工知能の開発に適しているとされているプログラミング言語であるPythonで、動画像から人間と推定される動きを検出することにも成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
ハイブリッドカイト(研究応募時には、「ハイブリッド型気球」と称していた。)にカメラなどの開発した機器を搭載して、マルチコプター(ドローン)では安定した飛行が困難であった地上風が5m/s以上での飛行および撮影実験を行う。試作した小型のハイブリッドカイトの飛行実験にはすでに成功しており、学会発表を行っている。試作した機体で問題となっていたのはヘリウムガスのリークであった。複雑な形状をしているため、膜のシーリングの難易度が高く、ヘリウムガスの充填後数日で浮力が減少し、さらに形状を保てなくなっていた。そこで、使用している膜(ヘプタックス:納品実績JAXAのみ)に適したシーラーでの試作を始めている。技術的なことは公開されていないが、超音波を用いた特殊なものである。ハイブリッドカイトの基礎技術を応用した構造物に関する研究成果は、日本航空宇宙学会英文論文誌に平成30度中に掲載される予定である。 開発しているハイブリッドカイトにカメラ等の電子機器と無線伝送を装置を搭載して、空撮実験等を行う準備をしている。平成28年度の研究計画書を作成した時点では、遭難者を発見する可能性が高くなるシステムの構築を想定していたが、捜索側に過失があるとみなされないようにするためには、自動捜索システムの実現が必要であると考える。 そこで、平成29年度の後半には、動画像からオプティカルフロー技術を用いて人間を自動検出するシステムの基礎実験まで行った。平成30年度にはAI技術を用いて、人間のレベルに近い、あるいは超える遭難者の認識率を実現するシステムの構築も行う予定である。 ドローンの性能がここ2~3年で急速に進化したことから、ハイブリッドカイトを用いた研究と共にドローンも使用して実験を続ける。
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Research Products
(8 results)