2017 Fiscal Year Research-status Report
高品質InAs薄膜を利用した高強度テラヘルツパルス光源の開発
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16K06326
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐々 誠彦 大阪工業大学, 工学部, 教授 (50278561)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小山 政俊 大阪工業大学, 工学部, 講師 (30758636)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | Terahertz radiation / テラヘルツ放射 / GaSb/InAs / InAs / ヘテロ構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
InAs薄膜を利用したテラヘルツ放射素子の高強度化に向けた検討を行っている。この研究はフェムト秒パルスレーザ励起でテラヘルツ波を簡便に発生する放射素子の開発を目指し,InAs薄膜のフォトデンバー効果を利用した高強度な放射素子の形成を目的としている。この効果を利用すると,光スイッチのように電圧を印加するための電極構造が不要で,正確な光学位置合わせを必要としないため,取り扱いが簡便な素子が実現できる。昨年度までに,従来の薄膜構造を超える放射強度を実現するために,GaSb/InAsヘテロ構造の利用を検討してきた。GaSb/InAsへテロ構造を利用することで,GaSb層(キャリア励起層)中に励起されたキャリアをInAs層(放射層)中に注入し,GaSbとInAsとの大きな伝導帯エネルギー差を電子の加速に利用して,高エネルギー電子の注入を行い,放射されるテラヘルツ波の高強度化を検討した。 しかし,GaSb表面でのフェルミレベルのピニングの効果により,励起された電子の拡散を抑制するような表面電界(エネルギーバンドの曲がり)が形成され,結果として,InAs層のみの構造より高い放射強度を得ることはできなかった。 今年度は,その原因を取り除くため, GaSb層の上にさらに 1 nm のInAs層を成長した試料でGaSb層の厚さを5 nmと薄くした試料を作製し,放射強度を測定したところ,放射強度はInAs層のない構造に比べ,約2倍に増強しただけでなく,InAs薄膜のみの構造に比べても1.4倍程度の放射強度を得ることができ,当初の目的を実現することができた。 この成果は,国内では応用物理学会ならびに International Meeting for Future of Electron Devices, Kansai 2017 で発表するとともに,海外では,The 20th International Conference on Electron Dyamics in Semiconductors, Optoelectronics and Nanostructures にて発表を行い,成果の公表に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的に沿い,光励起キャリアを高速化するためのGaSb/InAsへテロ構造の検討を行った。GaSb層の厚さを 5-300 nm で変化させ,放射強度の測定を行った結果として,放射強度は減少したが,その理由がGaSb表面でのピニングによるバンドの曲がりによる,電子の拡散の抑制であることが判明した。昨年度は,InAsキャップ層でその効果を抑制できる可能性が示されたため,GaSb層の厚さを薄くした試料を作製し,検討を進めた。 今年度は,GaSbが5 nmと薄い試料を作製し,InAs層のないものと放射強度を比較した。その結果,表面にInAs層を設けたInAs/GaSb/InAs構造の試料では,GaSb/InAs構造の試料に比べて,GaSb層の厚さによらず,放射強度が約2倍に増加した。これによって,GaSb/InAsヘテロ構造では,表面ピニングの効果が主となり放射強度が低下したことが確認でき,さらにGaSbを5 nmとした試料では,InAs薄膜のみの試料の1.4倍の放射強度を得ることができ,本研究の当初の目的を実現することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では,InAsキャップ層を設けた,GaSb/InAsヘテロ構造の有用性を示すことに成功したが,GaSb層の厚さに関する最適化ができておらず,その検討を継続して進める予定である。また,従来の測定は,45度入射の反射配置での測定だけを行なっているため,放射強度の角度分布に関する情報が得られていない。今後は,放射の角度分布を調べることでさらなる高強度化への検討を進める予定である。
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Causes of Carryover |
(理由) 研究用試料を作製するために使用する,分子線結晶成長装置の稼働率が当初の予定を下回ったため,運転に必要な液体窒素の使用量が予定を下回り,次年度使用額が生じた。 (使用計画) 引き続き,研究用試料作製のため,分子線結晶成長装置運転用液体窒素の費用として使用するとともに,装置の維持管理費用にも充当する予定である。
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Research Products
(4 results)