2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K06404
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
藤木 弘之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 物理計測標準研究部門, 研究グループ長 (00357906)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電力 / 電力計測 / 計量標準 / 精密測定 / 交流電圧 / 位相 |
Outline of Annual Research Achievements |
計量標準において、交流電力標準を新しい原理で構築することを研究の目的とする。現在、交流電力の国家標準を最も精度良く確立できる方法は、電圧標準、電流標準、位相標準の個別の国家標準を組み合わせて実現する方法である。この方法は、各標準により校正されたデジタルの交流電圧計や位相計を用いて電力標準を確立しているが、デジタル機器が基準となるため、温度などの外乱の影響や経年変化により、高精度化に限界がある。また、現在の方法では、100V、5A、50 Hzの決まった値の電力の校正は可能であるが、20 V、3A, 600Hzのような中途半端な電力の基準を実現するのは手間がかかる。範囲の拡張において、50 Hzや60 Hz以外の拡張する周波数の交流電圧や交流電流の標準が必要であり、電力の国家標準において、1 kHz以上の校正を供給している国は極めて少ない。サーマルコンバータを用いた物理現象の原理に基づいた電力基準器を開発することで、電圧や周波数の拡張が容易になり、高精度化も期待できる。 これまで、サーマルコンバータと呼ばれる熱-電気変換素子は、交流電圧標準と交流電流標準の基準として用いられてきた。従来のサーマルコンバータは印加できる電圧範囲が限られ、壊れ易いため、サーマルコンバータを用いた電力標準への応用研究は実績が乏しかった。本研究で開発するサーマルコンバータは、ヒータ薄膜を、熱電対とは別の熱伝導率の高い窒化アルミ基板に作製することにより、耐電圧を改善し、電圧範囲を従来の1 Vから10 Vまで拡張する。また、ヒータ抵抗値や熱的な時定数を適切に選ぶことで、50 Hzから10 kHzまでの周波数特性を改善する。サーマルコンバータを用いることで、交流電力標準の高精度化や範囲拡張が容易になり、再生可能エネルギーを利用した電力の取引や無線電力伝送技術の開発に貢献できるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は初年度であり、サーマルコンバータのプロトタイプの作製と電力計測システムの開発に着手することが計画であった。サーマルコンバータの作製については、入力が10 Vと0.1 Aまで印加可能なサーマルコンバータを開発した。サーマルコンバータは、直流と交流の電気エネルギーを熱エネルギーに変換して比較するが、100 Hz以下の低周波では、ヒータの温度が入力交流電圧・電流の周波数変化に追随する熱リップルにより、正確な温度測定が難しくなる。また、ヒータ抵抗値の温度依存の影響でも不確かさが大きくなる。低周波範囲の交流電圧測定の不確かさ改善を行うため、ヒータ抵抗の温度係数を10 ppm以下に改善し、熱リップルの影響を小さくできる熱的時定数のサーマルコンバータを開発した。結果として、10 V, 50 Hzの交流電圧の交直差の不確かさは従来の12 ppm から4 ppmに改善した。この結果は、28年度の電気学会全国大会で発表を行った。 サーマルコンバータを電力基準器とした新しい電力標準を評価するため、現在の電力計測システムと比較評価するための準備を行った。現在の電力の国家標準においては、デジタル電力計に入力される交流電圧と電流を校正して、電力標準が求められている。このため、交流電圧と交流電流が校正できるシステムの開発を行った。交流電圧については、電圧用サーマルコンバータを用いて電圧計を校正するシステムを構築した。交流電流は交流シャント抵抗と交流電圧を基準として求めているため、シャント抵抗の電圧の計測で必要となる低電圧交流電圧標準の高精度化を行った。結果として、低電圧範囲の不確かさを約2割改善し、高精度の交流電流評価が可能となった。この結果については、精密電気計測の国際学会(CPEM)で発表した。また、同内容を査読付き英文誌に投稿し、アクセプトされており、2017年度に掲載予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の計画では、サーマルコンバータを電力基準器として用いた時の不確かさの評価を行う。電圧依存や電流依存の影響などの主な不確かさ要因を評価する。また、前年の測定結果をフィードバックした複数のサーマルコンバータを作製し、抵抗値などの条件を決め、後述の妥当性確認ができるサーマルコンバータの作製を行う。 本研究では、電力計測システムの開発も必要であり、次年度では、電力標準器に入力される交流電圧と電流の位相を精密測定するシステムを開発する。位相の精密測定に関しては、電圧と電流の位相差をロックインアンプで測定する予定であるが、電圧と電流を高速でサンプリングして、位相差を評価する方法も検討する。実際には、力率1を実現するため、位相の微調整も必要であり、交流電圧と交流電流発生器の同期をとるシステムの開発も行う。 最終年度では、サーマルコンバータを用いた電力計測システムの妥当性の確認を行う計画である。サーマルコンバータを校正器物として、現状の国家標準の電力システムと比較することはできないので、電力計を仲介器として用いる。妥当性確認の準備のため、来年度も日本電気計器検定所の職員と比較点や測定システムの方法を協議する。現在、産業界から電力標準の高精度化の要望があっており、現在の電力測定システムの高精度化の検討も行う。電力計測システムについては、デジタル電力計とサーマルコンバータ用の電力計測システムの両方の不確かさ評価も必要であり、準備をすすめる。
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Research Products
(5 results)