2017 Fiscal Year Research-status Report
素地調整を省略した橋梁点検時の応急塗装手法の確立と地方自治体の中小橋梁への適用
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16K06458
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
原田 隆郎 茨城大学, 工学部, 教授 (00241745)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地方自治体 / 橋梁点検 / 部分塗替え / 応急塗装 / 素地調整 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目は,前年度と同様に,複合サイクル促進試験と実橋の現場適用試験によって,点検時応急塗装手法による劣化抑制効果の確認を継続した. まず,複合サイクル促進試験(以下,促進試験)では,前年の研究で得られた結果(普通スプレー塗装では,橋梁点検間隔の5年に耐えうる腐食劣化抑制効果は期待できない)を踏まえ,スプレー塗装に用いる塗料を高耐久性塗料とさび転換塗料の2種類に変更し,橋梁点検間隔の5年に相当する腐食劣化抑制効果を確認した. 促進試験に用いた試験体は,幅70mm,高さ150mm,厚さ2.6mmの鋼板SS400の一部を,塩水噴霧と室内乾燥の繰り返しによって一定期間さびさせ,その上に高耐久性塗料とさび転換塗料のスプレー塗装を塗布したものとした.促進試験は,実環境における暴露年数5年間を想定して実施した.試験後にすべての塗料とさびを除去し,試験前後の重量変化を板厚減少量に換算し,塗料ごとの変化を確認するとともに,鋼材面の腐食劣化状況も観察した. その結果,高耐久性塗料とさび転換塗料はどちらも5年で約0.2mmの板厚減少に止まっており,塗装を行わない場合の板厚減少(約0.4mm)の約50%に抑制できることが確認できた.さらに,さび除去後の鋼材面の腐食状況を観察したところ,塗装を行わない場合は孔食の兆しが見られたのに対し,高耐久性塗料とさび転換塗料では鋼材面にほとんど変化は無かったことから,点検時に応急的塗装を実施する効果が認められた. 一方,昨年度より開始した現場適用試験については,一般環境で供用されている地方自治体管理の1橋梁を対象に,応急塗装のさび外観観察と塗膜厚計測を継続した.その結果,さび転換塗料は1.0~1.5年程度で塗膜はほぼ消失し,実環境でのさび転換塗料の耐久性は低いことが確認された.なお,他の塗料については,現時点では膜厚の変化や塗装の劣化などは見られていない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,地方自治体が管理する中小鋼橋を対象に,原則5年に1回実施される橋梁点検時において,素地調整を省略した応急的な塗装を実施することで,その防食機能の劣化や腐食を抑制する手法の確立を目指すものである. 研究2年目は,主に複合サイクル促進試験によって,高耐久性塗料とさび転換塗料の点検時応急塗装の効果を把握した.結果として,塗装を行わない場合の板厚減少の約50%に抑制できることを実験的に確認できた.さらに,高耐久性塗料は2年目までで約0.15mmの板厚減少があったものの,その後は板厚減少速度が遅くなり,最終的には5年目で約0.2mmの板厚減少となること,さび転換塗料では,2年目までの板厚減少は約0.1mmに抑えられたものの,その後は板厚減少が進み,最終的には高耐久性塗料と同様に5年目で約0.2mmの板厚減少となることなど,高耐久性塗料とさび転換塗料における腐食抑制効果の経時的な変化についても把握できており,次年度以降の比較対象となる有益なデータを実験的に得ることができている. 一方,現場適用試験では,さび転換塗料の実環境での耐久性は想定していた以上に低く,試験塗装後1.0~1.5年程度で塗膜はほぼ消失したことから,現場適用試験の実施方法やスケジュールを一部見直すことを検討中である.ただし,さび転換塗料以外の試験塗装された塗料については,外観観察と塗膜厚変化を継続計測できている. 以上より,研究自体はおおむね順調に進んでいると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
研究3年目も,過去2年間の成果を踏まえて,複合サイクル促進試験を中心に,点検時塗装手法の腐食劣化抑制効果の確認を行う予定である.さらに,点検時塗装手法を取り入れた塗替え費用最小化シナリオを検討する準備を行う. 研究3年目の複合サイクル促進試験では,一定の腐食抑制効果が確認できた高耐久性塗料による応急塗装手法について,橋梁点検間隔5年を超える場合の腐食劣化抑制効果を確認する.これは,本手法の保証期間(橋梁点検間隔の5年を保証する)に安全率を設けるという観点での検討である.また,さび転換塗料による応急塗装手法については,2年目までの板厚減少は抑えられたものの,その後は板厚減少が促進されたという課題を解決するため,腐食劣化抑制効果の持続および向上方法について実験的に検討する. 一方,実橋の現場適用試験については,一部のスプレー塗料の耐久性が低かったことから,試験片を改めて作成するなど,現場適用試験の実施方法を再検討するとともに,残り2年間の研究期間を考慮して,一部のスプレー塗料の腐食劣化抑制効果の確認は,複合サイクル促進試験を代用したスケジュールの調整を行う. さらに,当初の計画を一部変更し,複合サイクル促進試験の結果のみを利用して,点検時塗装の劣化抑制効果の経年変化を求め,性能劣化曲線を同定する.そして,地方自治体が管理する中小橋梁の塗替え塗装に関するLCCシミュレーションに利用する準備を行う.
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Causes of Carryover |
研究初年度と同様に,2年目も次年度使用額が生じた.金額は研究初年度の残金とほぼ同額であり,研究初年度分の残金がそのまま残ったと考えられる.研究2年目は,消耗品の購入,出張旅費,複合サイクル促進試験と現場適用試験に係る必要消耗品の購入,実験およびデータ整理等のアルバイト代が適切に支出された. 平成30年度(3年目)の予算は,引き続き複合サイクル促進試験を中心に使用し,消耗品,実験装置の賃借料,実験補助などのアルバイト代などに充当する.また,情報収集等の旅費としても使用する予定である.
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