2016 Fiscal Year Research-status Report
塩類化防止と農耕地保全を同時達成するキャピラリーバリア地盤の開発と最適構造の提案
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16K06486
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
小林 薫 茨城大学, 工学部, 教授 (80443638)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森井 俊廣 新潟大学, 自然科学系, 教授 (30231640)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | キャピラリーバリア / 礫層 / 破砕貝殻層 / 塩害防止 / カルシウム / 植物生育 / 植物根 / 塩水 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,人口増加に伴う水・食料の自給問題が大きな課題となっており,とりわけ塩類化の問題は世界100 カ国以上で発生している.塩類化が発生する地域では,持続的な農業に適した土地が少なく,未熟土の砂質土壌も農地として利用するなど,世界の水・食料問題にも繋がる地球規模の問題である.塩類化の発生が比較的多い半乾燥地域は,潜在的な農業生産能力が高いことから,農業に利用できれば食料問題の解決に貢献できると考えられる.半乾燥地における塩害防止策の1つとして,礫層(粗粒土層)とその上に砂層(細粒土層)を重ねた地盤であるキャピラリーバリア(CB)が有効である.しかし,半乾燥地における乾燥砂は,下部礫材の間隙に混入しやすく,層状地盤の層境界面の長期的な安定性の確保が困難である.筆者らは,この課題に対し,礫代替材に扁平な破砕貝殻を用いることで,CB機能(降雨浸透水の遮断・貯留効果)を保持したまま,乾燥砂の下部粗粒材の間隙への混入も同時に防止できる貝殻型CBを見出した. 本研究では,礫代替材として破砕貝殻を用いた貝殻型CBの多機能効果の内,①塩分上昇遮断効果と②破砕貝殻から溶出したカルシウムが植物の発芽・生育に及ぼす影響について実験的に明らかにした.加えて,破砕貝殻は,扁平形状等の特性を有するため,植物根の侵入を防止できる可能性がある.礫層や貝殻層の敷設位置は,植物根の長さに合わせ選定可能であるが,深くなるほど掘削費用が大きくなり,また無数にある植物の植物根長さを事前に把握することは極めて困難である.このことから,植物根の侵入を防止できれば,植物根の長さに影響されることなくCBの埋設位置を設定できるため,合理的な埋設位置の設定が可能となる.以上より,礫型CB と貝殻型CB における,礫層及び貝殻層への植物根の侵入特性と植物根侵入がCB機能である遮断・貯留機能に及ぼす影響について明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
室内実験による破砕貝殻の透水性・SWCC等については,粒度ごとの特性を把握したが,溶質物質の移動特性については定性的な評価に止まり,定量的な評価についてはH29年度中に実施する予定である.また,破砕貝殻を用いた塩分遮断効果については,新潟大学の圃場でのフィールド実験により検証することができた.しかし,破砕貝殻の粒度と塩分遮断効果の関係についてはH29年度に実施することとなった.更に,ミズナを用いたフィールド実験(破砕貝殻を用いたキャピラリーバリア)では,破砕貝殻から溶出したカルシウムにより,植物(ミズナ)生育への影響を把握することができた.なお,土壌酸度の改質効果については必要性を検討した上で,H29年度に実施する計画である.また,HYDRUS-2D(または,HYDRUS-1D)を用いた貝殻型キャピラリーバリアの塩害防止効果については,解析結果で再現することができたものの,定量的な塩分移動評価には至っていない.H29年度に溶質物質(塩分,カルシウム分)の移動特性を定量的に把握できれば,数値解析による評価も可能性であることがH28年度の検討で確認できた. 以上より,一部については定量的な評価まで至っていないものの,当初計画していた研究課題については,実験および解析共に「概ね順調に進展している」ものと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については,当初計画の通り推進する予定である.特に、研究分担者の新潟大学森井俊広教授と連携を密にしながら,効率よく推進していく.加えて,貝殻型キャピラリーバリアを用いた塩害防止工と植物生育に及ぼすカルシウムの効果など,HYDRUS-2Dを用いて評価する必要があるが,この部分については井上光弘鳥取大学名誉教授の助言・アドバイスを頂きながら効果的な評価を実施していく予定である.更に,フィールド実験については,引き続き新潟大学農学部の圃場を利用しながら,半乾燥地を模擬したフィールドで実験を行い,社会実装の可能性・実効性について室内とフィールド実験の測定データおよび数値解析の結果を基に検証する. なお,H28年度に明らかにできなかった点については,H29年度に取り込んで早期に実施する予定である.主な項目は,以下の通りである.1)溶質物質の定量的移動特性の把握,2)破砕貝殻の粒度と塩分遮断効果の関係,3)砂層の土壌酸度改質効果の把握(検討の結果,必要性ありと判断された場合) 一方,解析的なアプローチであるHYDRUS-2D(または,HYDRUS-1D)を用いた貝殻型キャピラリーバリアの塩害防止効果については,解析結果で概ね再現することができたものの,定量的な塩分移動評価に至っていない.しかし,H29年度に溶質物質(塩分,カルシウム分)の移動特性を定量的に把握できれば,数値解析による評価も十分可能性であることが確認できた.
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Causes of Carryover |
H28年度当初、新規にΦ300mmの大型円筒実験装置を製作する予定であったが,予備検討が必要であると判断し,Φ200mm中型円筒実験装置(一部保有円筒装置を利用)に変更したため,その製作費と付属の消耗品などの差額として次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度に実施した予備検討の結果,大型円筒実験装置の製作を行い,それを用いた実験が必要かつ重要であることが把握できた.次年度には,半乾燥地への本格的実装に向けた検証実験を行うため,H29年度中に大型円筒実験装置(断熱材を含む)を製作する計画である.加えて,H29年度分の実験計画(実験的アプローチと解析的アプローチ)については,当初予定通り研究分担者(新潟大学森井俊広教授)とともに推進する計画である.
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