2016 Fiscal Year Research-status Report
観測研究とモデル研究の融合で導く降雨流出過程のスケール問題のブレイク・スルー
Project/Area Number |
16K06501
|
Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
横尾 善之 福島大学, 共生システム理工学類, 准教授 (90398503)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 降雨流出 / モデル / スケール / 貯留量 / 観測データ / 逆推定 / 河川流量 / 流域 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は,流域面積が1平方km以下の小流域における降雨流出過程のスケール依存性を研究代表者が開発した「降雨流出過程の逆推定法」によって整理し,山地の小流域から大陸の大河川流域に至る多様な流域スケールの依存性を明らかにすることを目的とした研究を計画していた.しかし,「降雨流出過程の逆推定法」の結果を利用して降雨流出モデルを構築するまでの一連の方法論を完成させた上で,研究を実施した方が多くの知見や幅広い議論が可能になるとの判断に至った.このため,平成28年度は降雨流出過程の逆推定法を利用した降雨流出モデルの構築法の開発を行った.なお,小流域における降雨流出過程のスケール依存性については平成29年度に詳細に議論を進めることとした. 研究代表者が着手した手法である「観測データに基づく降雨流出過程の逆推定およびモデリング手法」は,毎時の河川流量と降水量の観測データに「降雨流出過程の逆推定法」を適用し,河川流量を逓減特性が異なる複数の流量成分に分離した上で,各流量成分を流出する貯留量を推定し,それらを拘束条件として降雨流出モデル(タンクモデル)を構築する方法として開発した.この方法論の妥当性を日本の河川流域に適用した結果,その有効性を確認した.これら一連の成果を論文に取りまとめ,Hydrological Research Letters誌に投稿した.また,この手法の妥当性を土砂災害の観点や水質変動の観点から検討し,その結果を東北地域災害科学研究集会で口頭発表した. さらに,この手法を観測データが不足する流域に適用する方法論の一つとして,流域の気候・地理条件から流況曲線形状を推定する手法についても並行して検討し,論文にまとめた(Leong and Yokoo, 2017).
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,当初の研究計画を実施する前に,基盤となる解析手法を発展させることに注力した.このため,当初の研究計画は翌年度に実施することになった.しかしながら,本研究の基盤となる解析手法の開発は予想以上に大きく進展し,観測データのみから降雨流出モデルの構造とパラメータを同時に推定することを可能とする画期的な手法として取りまとめることができた.さらに,流域への降水量のうち,最終的に河川流量に寄与する割合を時々刻々と推定することも可能であることが分かり,従来の降雨流出モデルの構築手法を大きく発展させる知見を得ることができた.この成果は論文として投稿した.また,次年度の研究に必要となる小流域における毎時の降水量および河川流量の観測データの収集も進めた.さらに,データが不足する流域では本手法が適用できない問題に対処する方法の一つとして,流域の気候・地理条件から流況曲線形状を推定する手法の開発も行い,予想以上の成果を得た.このため,「おおむね順調に進展している」と評価した.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,平成28年度に収集した小流域における降水量および河川流量データを利用して,流域内の降雨流出過程の逆推定とモデリングを行う.さらに,流域を構成する部分流域における降雨流出過程が存在する場所によって異なるという性質である「空間的多様性」が,なぜ流域面積の増大と共に減少し,それが収斂して「空間代表性」が発現するのかについての検討にも着手する予定である.
|
Causes of Carryover |
平成28年度は,当初の研究計画にはなかったが,オランダのデルフト工科大学に所属する研究者との国際共同研究を実施することになった.この国際共同研究のため,2017年の3月の約1カ月間をデルフト工科大学において研究を実施することになり,その滞在に必要な費用が年度末に至るまで確定できなかった.このため,当初計画していた消耗品の購入,国際学会への参加,データ処理作業への謝金などを次年度に持ち越すことにした.以上の理由によって,次年度使用額が生じた.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は,平成28年度に使用しなかった研究費を活用して,研究成果を公表する論文の英文校閲,論文の投稿料,国際学会への参加を追加することを予定している.このため,平成29年度の配分額に加えて,次年度使用額は平成29年度中に使用する見込みである.
|