2020 Fiscal Year Research-status Report
近世城下町町人地における水系の設計論理に関する基礎的研究
Project/Area Number |
16K06546
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
阿部 貴弘 日本大学, 理工学部, 教授 (90549445)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 近世城下町 / 町人地 / 設計論理 / 水系 / 町割 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、まず、近世城下町仙台・彦根・和歌山・広島・松江・萩・高松を新たな研究対象として、既存の方法論を用いて城下町の設計論理を明らかにした。さらに、地形や水害をはじめとする災害履歴との関係を念頭に置きながら、これらの諸都市における水系の形成過程を整理した。 そのうえで、これらの7都市のほか、過年度の研究対象である近世城下町久保田・江戸・大坂を加えた10都市において設計論理の比較分析を行い、近世城下町の水系の設計論理の解明を試みた。その結果、以下の結論を得た。 水系の設計論理は、大きく「内濠」「外濠」「その他の舟運路」に分類することができる。まず、内濠は城郭を防衛するために開削される濠であり、設計にあたっては、城郭防衛の論理(縄張り)が最優先され、そのため地形条件を加味しつつも、防衛の論理から時には大規模な地形改変を伴うような設計がなされた。一方、外濠は、内濠と同じく防衛の役割を持つ濠であるが、その開削位置については各城下町によって違いを見ることができた。とくに、城下町の立地に大きな影響を受けており、防衛の論理に配慮しつつも、地形条件を加味した効率的な設計がなされていた。加えて、内濠と異なり外濠は、防衛のみならず、武家地と町人地の境界としての役割や、舟運路および排水路としての役割も担っていた。次に、その他の舟運路については、地形および町人地との関係が開削位置に大きな影響を及ぼしていた。地形に関しては、おもに微低地に舟運路が開削されており、地形に則った効率的な設計がなされていた。また、各舟運路とも、町人地の主要街路とのアクセスに配慮した設計がなされていた。 なお、これまでに、水系の設計論理と水害との直接的関係を見出すことはできなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
近世城下町町人地における水害等の災害履歴をはじめとする史料については、研究対象地における史料収集に当初の予定よりも時間を要しており、その結果研究スケジュールがやや遅れている。具体的には、各水害の記録は各史料に記載があるものの、それらは発生年月を記すだけのものであるなど限定的な情報であることが多く、各水害の全体像を把握するための史料収集が当初の想定よりも困難であることが判明した。 これに対しては、年代ごとの絵図と災害履歴との関係を突き合わせることで、水害の全体像を類推するなどして、史料の不足や研究の遅れを取り戻すことができるよう努めている。さらに、研究成果を精緻にするため、史料の残存状況等を加味して研究対象地の見直しを行い、新たな研究対象地を加えて分析を進めている。そのため、新たな史料収集等に時間を要することとなり、研究がやや遅れているが、すでに史料収集は完了しており、研究の遅れを取り戻すことは可能であると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、研究成果取りまとめの最終年度として、まず、これまでの各研究対象地における史料分析を進め、水系の設計論理の精緻化を図る。そのうえで、各城下町及び湊町の設計論理の比較分析に基づき、各城下町で共通する論理および各城下町固有の論理を導き出すことで、近世城下町の水系の設計論理の全体像を解き明かす。 なお、これまでの研究成果を踏まえると、水系の設計論理と水害との直接的な関係は見い出せていない。そこで、城下町周辺の治水対策等にも視野を広げ、城下町への水害の影響を排除したうえで水系が設計されたのか、あるいは何らかの影響があったのか、この点についても比較分析に基づき解き明かす。
|
Causes of Carryover |
研究の遅れに伴い、新規史料収集や現地調査旅費の執行が遅れているほか、研究代表者が先行研究により収集した史料に基づく分析を行った結果、史料収集のための経費および旅費を削減することができたことから、次年度に使用額が生じた。 研究の進展に応じて、各研究対象城下町および湊町において、史料収集のほか、現地調査等が必要になることから、経費および旅費を使用する計画である。
|
Research Products
(2 results)