2016 Fiscal Year Research-status Report
多様な災害に対応する避難行動モデルの精緻化とロバストな避難安全性の評価
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16K06642
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
安福 健祐 大阪大学, サイバーメディアセンター, 講師 (20452386)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 避難行動 / シミュレーション / 津波 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、多様な災害シナリオに対応する避難行動モデル開発の準備段階として、津波を対象とした避難行動データを収集した。収集方法は、南あわじ市で行われた住民避難訓練、想定観光客に対する避難行動実験および大規模可視化システムを用いた仮想災害環境下での被験者実験による。また、詳細な避難行動モデルを設計するための基礎研究として、人が空間を移動するときの視覚的変化と行動特性の関連を分析するため、光学的流動に着目した空間分析ツールの開発を行った。 住民避難訓練および想定観光客に対する避難行動実験は、南海トラフ地震等の巨大地震による津波が夜間に発生した場合を想定しており、津波避難誘導灯の試作機が設置されたエリアと設置されていないエリアの比較により分析を行った。その結果、地理不案内である想定観光客は、住民よりも誘導灯に気付く確率が低く、誘導灯の誘目性を高める必要性が生じた。ただし、誘導灯に気付いた被験者は、最も効率よく避難できたこと等、その効果についても確認した。仮想災害環境下での被験者実験は、津波避難誘導灯を設置した夜間街路のCG画像を大規模可視化システムに表示し、主観評価を通して、避難行動特性を分析した。実験は、1枚のCG画像による絶対評価と、2枚のCG画像による一対比較により行った。その結果、誘導灯を高さ2.5mに設置し、誘導灯下部にフラッシュライトを設定すると高い誘目性と避難誘導効果がみられた。また、避難経路の選択傾向と誘導灯の気付きやすさに高い相関がみられた。 光学的流動に着目した空間分析ツールに関しては、3D-CGを利用して、透視投影図上で視点や対象物が動くことによる光学的流動を高速かつ正確に表現する手法を提案するものである。本ツールにより、光学的流動の変化から、対象物への接触までの時間、遮蔽縁での可視面の消失割合、出現割合等の空間特性を定量化できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究計画では、申請者が参画している南あわじ市の夜間津波を対象とした避難訓練データ、想定観光客に対する避難行動実験および仮想災害環境下での被験者実験を通して避難行動データを収集するとしており、神戸大学、富山大学、パナソニック株式会社の協力を得ながら実施・分析を行い、順調に進んでいる(なお、本実験で外部資金による他の予算割当はない)。ただし、研究計画段階での仮想災害環境下での被験者実験については、VRヘッドセットを用いる予定であったが、実験内容の見直しと効率化のため、大規模可視化システムを使った実験に変更している。大規模可視化システムは本学サイバーメディアセンターに設置されている24台のフルHDプロジェクションモジュールで構築された大型高精細ディスプレイ装置である。 今後、多様な災害シナリオに対する避難行動モデルの開発のため、夜間津波に対する避難行動についてのデータは得られたが、被験者数に限りがあったため定性的な分析にとどまっている。また、夜間以外の津波、火災、水害、地震等、多様な災害に対する膨大な避難行動データが必要となり、過去の災害事例を含めて調査する計画であったが、モデル化を行うための定量的なデータ整理については遅れが生じている。一方で、光学的流動をベースとした空間分析ツールの開発については、空間特性と避難行動特性の関連性を分析していくために有用なツールとなり得ることから、今後、避難行動のモデル化に応用する計画であり、計画段階よりも進展している点である。 上記の進捗状況を鑑み、多様な災害に対する避難行動データ整備は今年度十分に達成しているといえないものの、夜間津波からの避難行動という希少なデータが得られたこと、新たな基本研究を進めることができたことなど、当初の研究計画から発展している部分もあり、研究計画としてはおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
多様な災害に対する避難行動モデル開発のため、避難行動データの収集を文献調査中心に継続するとともに、マルチエージェントベースで多様な災害に対する避難行動を扱うための基盤プログラム開発を行う。これまで開発してきたマルチエージェントベースの避難シミュレーションは連続座標モデルで、局所的な群集行動については各種のモデルを組み込める等、汎用性の高いフレームワークとして開発を行ってきた。今後は、高密度な避難行動が扱いやすいSocial Forceモデルをベースにパラメータ調整を行っていく予定である。一方で、避難場所に到着するまでの経路選択については、現状、最短経路か、任意に指定した経路となっており、不慣れな空間で避難方向がわからない状態での経路選択行動など、大域的な避難行動については未着手であった。今後は、経路選択に確率的なモデルを導入し、災害による避難経路変化や、避難誘導の効果を検証できるよう開発をすすめる。 避難行動モデルの検証方法については、収集した避難行動事例の再現、海外の事例を含めたモデルの検証と妥当性の確認(V&V)の手法について網羅的に調査を行い整理する。特に、国際海事機構(IMO)が提供している旅客船の避難解析ガイドラインや、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)のTechnical Note1822におけるQualitative verificationの考え方を援用しながら、信頼性の高い妥当性の確認を行う。また、V&Vには、シミュレーションの可視化も重要であると考え、本学サイバーメディアセンターの大規模可視化システムを活用し、専門家同士の議論の場を設け、意見を取り入れる。防災専門家については、本学の防災研究者および神戸大学都市安全研究センターの協力を得る。
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Causes of Carryover |
旅費において当初の見積を下回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の研究成果発表のための旅費が当初の見積を上回る可能性が出てきたためその補填に使用する。
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