2017 Fiscal Year Research-status Report
高齢期リロケーションにおける前住居の「仕舞い」のプロセスと新環境への順化
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16K06670
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
古賀 紀江 関東学院大学, 建築・環境学部, 教授 (10295454)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横山 ゆりか (今井ゆりか) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20251324)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高齢期転居 / 仕舞い / 高齢者 / 高齢者専用住宅 / 評価 / アンケート調査 / 環境移行 / 「もの」 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高齢期のリロケーションにおける前住居の「仕舞い方」に焦点をあて考察を加える。愛着や記憶が集積する住み馴れた住居を、整理して「仕舞う」プロセスを明らかにして新たな環境形成の成功に寄与する知見を得る。本年度は、①昨年度に開発した転居時における「仕舞い方」その他を転居経験者に問うアンケート調査の実施、②ケーススタディとして、「もの」を中心とした人生航路のオープンエンドのヒアリングを実施した。①はサ高住、市の住宅供給公社による高優賃、住宅型有料老人ホーム、グループリビングに居住する153名の協力を得ることができた。 アンケート調査対象のうち、施設規模が50世帯以上の4つの住宅に居住する138名の高齢者(男性35名、女性が103名、76歳以上が全体の8割)の回答の分析結果の概要を次に記す。 本調査で提示した転居準備(前住居を仕舞うこと)の評価項目は、①準備期間の充実=時間的満足、②新居の室内の雰囲気などを考える=計画行動、③「思い出」を重視する=記憶の保存である。これらの項目の高評価はいずれも転居の総合的な満足度につながっていた。また、①の時間的満足は物品選択の満足度(達成感)や、住み続けたい気持ち(愛着)に関与した。また、②の計画行動も達成感、転居後の住まいが前住居と似ているという感覚(持続感)自分の家らしさ(愛着)や、主観的健康感(健康度)に関係した。③の記憶の保存は持続感、健康度に関係する。即ち、転居準備行動(=「仕舞い」)において①時間的な満足や②計画行動は、転居における達成感やその後の住まいに対する愛着に関与している。即ち、新たな環境を形成する上でより強い意味を持つとも考えられる。 ケーススタディは、8戸からなる小規模なサ高住の居住者2名の協力を得て実施した。人生と不可分一体な「もの」の存在と転居によって縮小されていく住空間について多くの語りが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、①「個別の仕舞い方」および②「集団生活の仕舞い方」の二つの視点に基づき実施している。 ①の「個別の仕舞い方」は、研究の中核をなす部分で自立高齢者が転居を選択した際の自宅の「ものや家具の環境」の仕舞い方を中心に考察を行う。立案当初、ヒアリングによる調査を計画したが調査環境を勘案してアンケート調査の実施後、ケーススタディとしてヒアリング調査に移行するよう変更した。28年度中にアンケート調査票の開発と施行、調査を開始して初期の成果は29年度(本報告年度)の日本建築学会大会にて速報した。アンケート調査は29年1月から12月に6施設の153名の高齢者より回答を得た。成果の一部は本年(30年)7月のInternational Association People - Environment Studies (IAPS)及び、9月の日本建築学会大会にて発表予定である。ケーススタディは29年12月に2名を対象に試行済みである。なお、「個別の仕舞い方」について、「仕舞い」のプロセスを持つことが困難と考えられる特養などの入居者を比較対象事例として位置づけた調査を予定していた。この部分については申請者らがすでに実施している調査結果の再分析と必要な場合にはケーススタディを実施する予定である。 ②「集団生活の仕舞い方」は、先の震災において仮設住宅での避難生活を余儀なくされた人々が避難の場で形成したコミュニティを関心の対象とする。28年度(初年度)に、いわき市内で避難町民の新たなコミュニティづくりに関与するスタッフのインタビューを実施している。29年度はこのインタビュー内容をまとめた。①のアンケート調査で明らかになってきた前住居で培った関係性の継続が転居後にもたらす影響の存在と合わせた考察を行うための調査を準備中である。 以上が、本研究が「おおむね順調に進捗」していることの査証である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、①「個別の仕舞い方」および②「集団生活の仕舞い方」の二つの視点に基づき実施している。本年度の計画を以下に記す。 (1)本研究の根幹部分である個別の仕舞い方に関する調査は29年度でおおむね完了している。本年度は分析が進んだ部分について、先の項目で記したように1つの国際学会(IAPS2018)と1つの国内学会(日本建築学会大会)にて発表を行う。この調査結果は本年度中に論文の上梓を目指している。日本建築学会計画系論文集に投稿を予定している。 (2)個別の仕舞い方について、「もの」環境を中心としたケーススタディを実施して分析の補強を行う。10ケースを目標としている。研究者の所属する大学の倫理審査を経て実施予定であり、8月、9月を予定している。 (3)集団生活の仕舞い方については、①の調査分析から得た知見と比較考察する形で研究を進める予定である。具体的には①のアンケート設問の一部を援用したヒアリング調査を行う。初年度に実施した調査と合わせた考察を行う予定で10~15名のヒアリングを予定している。(3)についても倫理審査を経た8月以降の実施を予定している。 (4)上記調査分析の結果は31年度の日本建築学会大会で発表予定である。 (5)29年度中に実施したアンケートの協力施設に対して報告書を作成して提出の予定である。29年1月から3月の実施の2施設には前年度中に報告書を提出済みである。
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Causes of Carryover |
29年度は、当初予定していた国際学会の参加をしなかったため、その分の予算の執行が行われなかった。また、調査方法をアンケート調査に変更したこと等により旅費や調査補助謝金の経費が予定より少なかった。以上が次年度使用額が生じた理由である。 この分について、本年度実施予定のケーススタディのヒアリング調査におけるデータ整理補助謝金、報告書作成のための諸経費及び資料整理等補助謝金として使用を予定している。
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Research Products
(1 results)