2016 Fiscal Year Research-status Report
英国における社会資産としての宗教施設の維持保全についての研究
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16K06681
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
頴原 澄子 千葉大学, 大学院工学研究科, 准教授 (40468814)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 宗教施設 / 適用除外 / Ivor Bulmer-Thomas / Redundant Churches Fund / National Churches Trust / Listed Buildings |
Outline of Annual Research Achievements |
宗教施設の維持保全に関する各種法文を収集し、既往研究とあわせて分析した結果、宗教施設には登録建造物として選定する際、Grade A, B, Cというカテゴリーが導入されたことに関連して、一般の建物については Delafons(1997)Politics and PreservationにてGrade I, II, IIIの評価基準を見ることができるが、Grade A, B, Cについては記載がない。本件は、使用中の宗教施設の登録建造物同意などの適用除外と同様に、宗教施設が例外的に扱われたことの証左であり、その経緯については更なる探索が必要である。 29年度に実施予定のFriends of Friendless Churches (FFC)の設立者I, ブルマー-トーマス研究の事前調査では、彼は1953年設立のHistoric Churches Preservation Trust (HCPT)の初代事務局長も務めたことが分かった。しかし、彼はHCPTが余剰教会堂に支援をしないことで意見対立し、1957年にFFCを設立した。HCPTは現在National Churches Trust (NCT)として政府や教会から補助金を得ず、かつ教会堂は保有しない方針で活動している。これは、ブルマー-トーマスが設立に寄与した余剰教会堂基金・現Churches Conservation Trust (CCT)が政府や教会から補助金を受け、余剰教会堂を保有しているのと対照的であり。ブルマー-トーマスはポリシーの間にあって、複層的に教会堂保護の体制を築いた人物であったといえる。NCTには建築史家J.サマーソンやJ.ベッチマンら建築保存の重要人物が関わったことから、新たに考察の対象としたい。 なお、原爆ドームに関する書籍・論文は、英国のコヴェンエトリー大聖堂の廃墟が記念碑的な意味を獲得して保存されたこと、J.ラスキンの思想に言及している。原爆ドームは宗教施設ではないものの、宗教施設にも近しい精神性を獲得した事例であり、歴史的建造物の維持保全における精神・感性の面の研究として、本研究実績の一部となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
宗教施設の維持保全をめぐる各種法文、報告書等の収集はほぼ完了した。しかしながら、研究前は、主に余剰教会堂の保全についてChurches Conservation Trust(CCT)の年次報告書の分析を行うことを想定したが、CCTと対をなす存在であるNational Churches Trust(NCT)について、新たに対比的に調査研究を行うのが有効だと考えるに至っている。 一方、当初研究予定であったHistoric Religious Buildings Alliance については、Ecclesiology Today誌 2014年7月に各団体の活動をまとめた既往研究が発見され、精査は必要なものの、個別情報を得られることが分かった。また、29年度研究予定であったI. ブルマー-トーマスについては、漸次、情報収集が進んでいる。 28年度終了段階では、新規発見事項の整理が必要なため、査読論文投稿に至らず、また、使用中の宗教施設・不使用となった余剰教会堂ともに現地調査が実施できていない。 以上が、研究がやや遅れていると評価した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は、28年度の研究によって、宗教施設が複層的に保護されている様相が明らかとなりつつあるので、その中から調査を行うべき場所を選定し、現状把握を行うため、数週間程度の英国現地調査を行う。可能であれば、各種イベントにも参加することで、地域コミュニティにおける宗教施設の位置づけを把握する。また、CCTとNCTの年次報告書から、両団体の活動方針や、経済的基盤、活動内容を対比的に分析してゆく。I.ブルマー-トーマスについては、各種の著作を入手するとともに、The Architect and Building News誌やBuilder誌等で発表記事を探索する。投稿論文の準備を行う。
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Causes of Carryover |
現地調査を実施することができなかったため、旅費の使用がほとんどなく、また、現地における書籍や雑誌コピーなどの文献収集に関わる物品費が使われなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度、昨年実施できなかった分の現地調査をまとめて行う。期間を一括して伸ばすことで、往復航空券代金を削減することができる。また、現地において、資料収集を進め、書籍購入、コピー代として使用する。また、研究会の開催を9月以降予定している。
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