2016 Fiscal Year Research-status Report
明治~戦前期の木造建築に使われた良材の産地とその年輪データに関する基礎的研究
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16K06701
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
藤井 裕之 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (30466304)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大山 幹成 東北大学, 学術資源研究公開センター, 助教 (00361064)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 年輪パターン / 近代和風 / 木造建築 / 現代 / 近代 / 良材 / スギ / ツガ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度となる2016年度は、研究計画全体における資源配分などを考慮して事前準備に徹することとし、調査用共通機材の購入、および実機の操作習熟のための実地テストを泊まり込みでおこない、同時に調査方針の討議と確認を図った。 年輪計測用画像取得のための共通機材(ソニーα7s2、およびEマウントマクロレンズ群)の購入については、本研究課題申請の計画調書の段階から具体的な機種および仕様をすでに決定ずみで、年度当初の段階においても当時最善かつ妥当と考えられる予算配分を設定し、交付申請をおこなった。しかし、その直後に発生した熊本地震で製造工場が被災した影響により市中価格が急激に上昇し、半年以上の間、予算を大幅に超過する事態になった。やむなく購入と実地テストの時期を冬頃まで遅らせ、また購入アイテム数を削減することで対処した。 実地テストは、近代和風建築のひとつである愛媛県喜多郡内子町高橋邸離れ(文化交流ヴィラ高橋邸)の年輪調査を兼ねて実施し、針葉樹材(目視観察によるとヒノキ、スギ、またはツガと判断される)製の天井板および建具の羽目板を対象に、年輪計測用の画像撮影をおこなった。その結果、室内暗所において、ストロボ等撮影用の重装備をとくに用意しなくても、幅広い条件のもと鮮明良好な計測用画像が得られることが確認でき、計画調書において論じたところの所期の成績を収めることができた。一方、撮影した画像による計測と分析作業はこれまでにおおむね完了しているが、既存の手持ちデータとの照合はいまのところまだ一切成立していない。 このほか、近代和風建築調査報告書などに基づいた調査対象物件のリストアップ作業を継続した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究によって収集したデータにより具体的な研究成果を得るところまではいたっていないが、年度初めに発生した熊本地震、およびそれによる経済情勢による間接的な影響を受けた点を除いては、計画調書に記載した方向性、および交付申請書において計画した目論見通りにおおむね推移している。また、実地テストを通じて、調査用の共通機材として新規に購入したデジタルカメラの有効性、妥当性、応用可能性を確認することもできた。以上のことから、(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、2年目となる2017年度から本格的なデータ収集活動に入る。 これまでの研究では、わが国主要針葉樹材(ヒノキ・スギ系)の年輪パターンの特性として広い地理的適用範囲を有し、なかでも木曽産の材から得たパターンはあまねく全国的に適用可能であるという説明がなされてきた。しかし、とりわけ西日本方面では照合がうまく成立しない例が数多くあった。本研究課題を立ち上げた所以もまた、そのような地理的な広汎性をあらためて検討する必要を感じたからにほかならない。初年度、機材の実地テストを兼ねた近代和風建築の調査結果もその例に漏れず、我々がまだ把握し切れていないなんらかの年輪パターンがほかにも存在していることを強く意識させられる。 以上のような意味で、本研究課題は予定調和の延長上には立っておらず、あらためて緊張感を持って調査対象の確保とデータの蓄積に努める必要がある。さしあたり西日本産の年輪パターンの蓄積を目指して全国的に調査を進める。東日本方面では北前船以来の人的交流と物流が目立つ日本海側におけるデータの捕捉が急務である。具体的にはこれまでリストアップした物件から所有者及び関係者の許可が得られ次第調査にかかる。そのため関係各所に研究の趣旨および意義を説明しつつ、調査実施の理解を得ていく。 なお分担者にあっては、2017年度前半の約5か月の間、出張のため外国に滞在することが決定し、その期間中は調査の実施が物理的に不可能になった。不在中に積み上がる他の公務との兼ね合いも懸念される。そのため、一部の調査費用については次年度に繰り越して執行することもありうる。また、調査の実施方について、代表者が西日本方面、分担者が東日本方面を主に受け持つことで計画してきたところ、状況次第により代表者が東日本の調査を受け持つことも対応策に含め、調査の進捗に遅れや漏れがないように取り計らいたい。
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