2017 Fiscal Year Research-status Report
明治~戦前期の木造建築に使われた良材の産地とその年輪データに関する基礎的研究
Project/Area Number |
16K06701
|
Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
藤井 裕之 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (30466304)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大山 幹成 東北大学, 学術資源研究公開センター, 助教 (00361064)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 年輪パターン / 近代和風 / 木造建築 / 現代 / 近代 / 良材 / スギ / ツガ |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目にあたる2017年度は、計画通りデータの収集と計測を本格的に開始した。 西日本方面に関しては、高知県高岡郡四万十町窪川・旧都築半平別邸の天井板を対象に年輪計測用画像(ツガ)を撮影し、別件で収集した愛媛県喜多郡内子町・旧下芳我家住宅隠居屋の天井板(スギ)とも併せて計測をおこなった。その結果、旧都築半平別邸の対象材はおもな5群にまとめられ、うち2群の年代は、高知城ツガ現用材Aグループのパターン(343層・1599~1941年)により、それぞれ1739~1890年、1625~1794年と求められた。本データはツガに関して懸案の現生・古材間のパターン接続に資するものと期待されたが、今回もそれは実現しなかった。しかし、窪川周辺はツガ資源が豊富で、既往のデータの産地・収集地、照合状況を総合的に考慮すると、上記のデータが高知県の、とりわけ西部に由来する可能性が高まったといえる。 旧下芳我邸隠居屋の対象材は1群(166層)に集約され、同町内高橋邸離れ(昨年度収集計測)のスギ天井板のうち一部の群(175層)と照合が成立した(重複年輪数156層)。建築のいきさつや場所が異なる当該期の2棟の建物で、年輪パターンが同調していることになる。分担者の大山が産地推定研究の目的で全国各地から収集してきた現生木のデータ(大山ほか2017、註)にこれと同調するものは見当たらず、上記のスギ材は未知の産地からもたらされた可能性が高い。 東日本方面では、山形県鶴岡市旧風間家住宅丙申堂の天井板を対象に年輪計測用画像の撮影を開始した。撮影は年度内に終わらず、計測ともども次年度にまたがって作業をおこなう計画である。また、新たに新潟県において調査対象物件の探索を開始した。 (註)大山幹成ほか 2017 日本産ヒノキ科樹木の木材産地推定に向けた標準年輪曲線ネットワーク構築, 第32回日本植生史学会大会(口頭発表)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度は、代表者にあっては生計上の立場における予想外の事態によってやむを得ず5月から1月まで一切の研究活動を停止せざるを得なくなり、また分担者にあっても既報のとおり年度当初から8月末まで外国出張のため国内における調査ができなかった。このため、年度内におこなえた西日本方面での現地収集調査は2件、計測も含めた検討は3件に(計測試料合計141点)、また東日本方面の現地収集調査は1件と、出来高としては当初計画の約半分にとどまった。それでも、ツガに関しては既存のパターンの汎用性が確かめられたほか、東西に長い高知県内のどちら寄りの産地からもたらされたか、絞り込みを可能とする成果が得られ、またスギについては現時点で入手可能なヒノキ科系の現生木によって把握困難な過去の有力な産地の存在が示唆される成果を収めることができた。どちらも目論見通りである。これは、かねてから事前の慎重な情報収集活動にもとづき戦略的に対象物件の選定にあたってきたことが功を奏したものと考えている。 他律的な要因により貴重な時間を逃した憾みはあるが、以上を勘案して(2)とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
愛媛県内の2棟で把握した未知のスギ産地については、そのパターンを具体的な地名とどのように結びつけられるか、さらに一段と難しい課題が待ち構えている。ツガの現生・古材接続の問題とともに、全国的なこれからのデータ収集により解決するほかないが、同様の未知の産地がどの程度存在し、どれほどのことがまだわかっていないのかを探ることも、本研究課題に課せられた重要な役割である。近現代の範疇で、日本の年輪年代に足りていない要素をさらに明らかにしていきたい。 新たに新潟県で調査対象物件の探索を開始したのは、東日本方面で集めてきた年輪データや木材入手にまつわるエピソードに、この地域に関わる例がいくつかあることを重視したためである。財を成した豪農の住宅が公開施設として複数現存しており、関係各所のご理解を得て調査を実現させたい。ただしその財力は、運搬等にかかる技術的制約を悠々と乗り越え、全国各地から所望の木材を自由に調達できるほどであったとみられる。当面の目標は新潟またはその近隣産の材の年輪パターンの把握に置くが、状況によってはこれまで意識されていなかった他の遠方産の材の移入状況が明らかになる可能性がある。ここで地場産かどうかを明確にするには、地元の近世建築から対照可能な題材を探し出すことも望まれる。これらの施策により、具体的な年輪データの把握と充実につなげたい。 上記のほかはこれまでの方針を引き続き堅持し、研究活動を推進する。2017年度に生じた代表者の生業上の諸問題は、2018年度は役割・立場が変わったため再現しない見通しである。調査の実施方については、代表者が西日本に加え、東日本の物件に関する探索と現地調査を分担者と協同しておこなう態勢とし、データの蓄積を加速させたい。
|
Causes of Carryover |
代表者の生業上の諸問題により、やむを得ず5月から1月まで一切の研究活動を停止せざるを得なくなった。また、復帰後直ちにおこなった諸検討の結果、立ち上がりとして新潟県方面への探索とそれに要する複数回の旅行を計画したが、現地公開施設の開館状況や降雪等による交通上の悪条件を考慮し、1回目の旅行を3月まで実施を遅らせ、2回目以降を次年度送りとした。 以上により、西日本方面で計画したデータ収集調査2件分と調査物件探索向け2回分に相当する次年度使用額が発生した。
使用計画については、調査物件探索向けには4月下旬にすでに1回分を執行済みで、残りは6月に執行予定である。西日本方面の公開施設における収集調査は、観光のオン・シーズンにおいては拒絶されがちであり、早々に執行することは難しいが、日程を効率的に組むなどし、2018年度執行計画分とも併せ、年度末までには完了させたい。
|