2017 Fiscal Year Research-status Report
延性二相合金におけるブリッジング現象の発現とクリープ強度への寄与
Project/Area Number |
16K06707
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
藤原 雅美 日本大学, 工学部, 教授 (40156930)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 延性二相合金 / LPSO相 / 押込み試験 / べき乗則材料 / クリープ特性値 / 複合強化 / 強化効率 / ブリッジング |
Outline of Annual Research Achievements |
二相合金の各相が延性をもち,全く異なる高温特性を有するとき,その合金のクリープ挙動は単相合金と比べてたいへん複雑になる.延性二相合金のクリープ理論は,未だに整備されているとは言えない状況にある.今後のMg合金開発の進展を期するとき,この種の合金の高温クリープ機構を調べる筋道を付けておくことは極めて重要と言える. 本研究では長周期積層構造(Long-Period Stacking Ordered, LPSO)相を含む延性二相Mg合金(以後,二相合金)の高温クリープ機構を調べるために,理論的な検討,押込みクリープ試験,計算機シミュレーションを行った.これまでに得られた主な結果は,次の通りである.(1)α-Mg相では格子拡散支配による粒界すべりが生じることでc軸方向の歪み成分が補完され,他相との界面における連続性が適度に維持される.LPSO相が定常状態変形するとき,主に底面すべり系が活動する.(2)二相合金のクリープ特性値は,α-Mg単相およびLPSO単相の当該値を各々の実効体積分率で重み付けした相乗平均又は相加平均で表せる.故に,この値からクリープ強度に及ぼすLPSO相の寄与を推定できる.(3)二相合金のクリープ特性値は変形速度によって変化し,べき乗則クリープ域では構成相の当該値の中間となる.この場合,変形速度が遅いときほどLPSO相のクリープ特性値に近い値となる.(4)二相合金では変形速度が遅いときほどα-Mg相が粒界すべりにより弱化し,LPSO相が全体の強度に寄与する割合が増大する.よって,二相合金では大部分の荷重を担うLPSO相のクリープ特性値に近い値が現れる.(5)二相合金では,べき乗則クリープ域においてLPSO相がα-Mg相を複合強化し,高いクリープ強度を実現する.これを向上させるには,キンクバンド導入などによるLPSO相の更なる強化が重要となる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,FEシミュレーションを用いて実験結果を解釈することに努め,所期の成果を得た.二相合金(α-Mg相+LPSO相)ではα-Mg相をLPSO相が複合強化し,高いクリープ強度を実現する.このとき得られた強化効率はκ≒0.82であり,LPSO相が強化相として有効に機能することを示唆する.しかし,高いκ値が得られる理由は不明であった.これを明らかにするために,二相合金組織を模したFEモデルが六面体1次低減積分要素(要素数:48,000個)によって作成された.各要素は弾性変形とべき乗則クリープが生じるとし,各相の力学特性は単相合金の実験値に近い値が設定された.クリープ速度と強化相の配置を何通りか変えて,相当応力,相当塑性歪み,相当塑性歪み速度の等高線パターンの時間変化などが調べられた. クリープ速度がある値になると,外力が母相と強化相に適度に分配されて,クリープ速度と各相の変形速度が同等になる状態が発現することが明らかにされた.このとき二つの強化相の狭間にある母相の変形は著しく抑制され,強化相同士が連結しているように見えるブリッジングが発現する.このときFE結果はκ≒1である.ブリッジングが生じるクリープ速度範囲は各相の力学特性に依存して変わるが,強化相の配置には余り影響されないようだ.クリープ速度を更に高めると,ブリッジングは消失する.このときκ<1となる.強化相の形状に不連続性を低減するような効果があると,クリープ速度の広い範囲でブリッジングが発現し,高いκ値が得られることになるであろう.これらの知見は,実用的な延性二相合金のクリープ挙動を理解する上で有用であると思われる. 上記のように,クリープ理論の構築,押込みクリープ試験,FEシミュレーションはほぼ順調に進展した.しかし,このFEモデルには不満足な点があるので,海外協同研究者の助言を得て更に改良する必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度において,これまでに得られた理論的検討・実験結果・FEシ解析結果を総合し,「強化相が不連続繊維状であっても,ブリッジングが発現する変形条件下では強化効率がκ≒1に近づき,その結果クリープ強度が高まるはずだ」という当初のシナリオを合理化する.等歪みクリープ変形モデルに基づく理論式を改良し,FEシミュレーションによってブリッジングが起こる幾何学的条件と変形条件を明らかにし,クリープ強度に及ぼすブリッジングの影響を理論式中の強化効率κで記述することを試みる.また実験により,Mg基二相合金(α-Mg相+LPSO相)でブリッジングが発現することを示唆する証拠を見出す.以上,主題である「延性二相合金におけるブリッジング現象の発現とクリープ強度への寄与」を解明するために,連携研究者,海外共同研究者,及び大学院生2名の助力を得ながら所期の目的を達成する. 今あるAbaqusを用いたFEモデルはブリッジングの有無を検証するだけのプリミティブなものであり,その現象が生じる諸条件の検討には十分なものとは言えない.これまでもFE解析のエキスパートである海外共同研究者(Ming Dao,MIT)と連絡を取り合ってきたが,電子メールのやり取りだけでは十分ではなかった.FEモデルを改良することと,FE解析結果を正しく抽出すること,それを正しく解釈するために,直接MDの助言を得たいと考えている.そのために,一週間程度の海外出張を予定している.また,二相合金のクリープ強度を高めるには強化相であるLPSO相中にキンクバンド(KB)を導入することが有効と考えられる.そこで,圧延率でKBスペーシングを調整し,これと強度の関係を明らかにする. 以上を踏まえて,延性二相合金の室温における重層的な強化機構(二相:複合強化,α-Mg相:微細粒強化,LPSO相:KB強化)と高温クリープ機構を解明する.
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Research Products
(10 results)