2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K06708
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Research Institution | Yokohama Soei University |
Principal Investigator |
小島 謙一 横浜創英大学, こども教育学部, 教授 (90046095)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小泉 晴比古 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 特任講師 (10451626)
若生 啓 横浜創英大学, こども教育学部, 講師 (40515839)
橘 勝 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 教授 (80236546)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | タンパク質結晶 / 放射光X線トポグラフ / 塑性 / 転位 / 脆性 / 無転位結晶 / X線回折 / 動力学的効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度に得られた実績は、以下の3つである。①タンパク質結晶の放射光X線トポグラフによる転位の観察と②微小硬さの湿度依存性についてである。3つ目は予想していなかった結果を得たことである。それは、③完全性の高いグルコースイソメラーゼ(GI)結晶で初めて動力学的回折理論によってX線回折曲線の解析に成功したことである。 ①放射光X線トポグラフにより体心斜方晶構造を持つグルコースイソメラーゼ(GI)結晶の完全性の評価の実験を行った。GI結晶中の転位は放射光にX線トポグラフより評価された。その結果、種結晶から表面に向かって走る2つの成長転位を観察することができた。転位の消滅則から、この成長転位は[111]のバーガスベクトルを持つ刃状転位であることが分かった。さらに転位像に沿う縞状のコントラストが観察され完全性の高い結晶で現れる動力学効果によるものと考えた。②正方晶卵白リゾチウム(T-HEWL)結晶の微小硬さ測定を湿度制御した環境中で行った。T-HEWL結晶を一定の湿度で大気暴露させるとその微小硬さは暴露時間の増加とともに上昇した。第一段階では、硬さは暴露時間に依存せずにほぼ一定となった。第二段階は暴露時間とともに硬さは上昇し、第三段階では硬さはほぼ飽和して暴露時間に依存しなくなった。この結果、第一段階の長さと飽和期の硬さは湿度に強く依存することが分かった。③完全性の高いGI結晶のX線回折曲線を動力学的理論で解析した結果、タンパク質結晶でも完全性の高いSi結晶と同じような結果になった。すなわち、放射光トポグラフの手法により結晶全体の各位置でのGI結晶の回折曲線を測定し、動力学的理論による解析を行った結果、実験とよく合う結果を得た。これは、一般的にタンパク質結晶は完全性が低いと言われていた常識を覆す結果となった。結論としてタンパク質結晶でも結晶構造解析に動力学的効果も考慮する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、従来から研究を続けていた卵白リゾチウム結晶の微小硬さの湿度依存性を観測した。さらに、ミリメータオーダーの完全性の高いグリコースイソメラーゼ(GI)結晶を育成する方法を確立した。すなわち、種結晶に架橋をした結晶を用いると成長転位が導入され完全性を悪くするが、純粋のGI結晶のみを種とした場合は無転位結晶になることを放射光X線トポグラフによって確認した。この無転位GI結晶に針によるインデンテーションを行い、実際に無転位の状態から塑性変形により、転位が発生することを初めて確認した。 また、今年度の成果の一つとして当初予想をしていなかった結果を得た。それは、タンパク質結晶でまだ観測されていなかった動力学的回折理論による無転位GI結晶のX線回折曲線の解析である。この振動状態を持つ回折曲線を動力学的理論で解析することはシリコンなどの半導体結晶では行われていたが、分子量の大きなタンパク質結晶で解析したのはわれわれが初めてである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は無転位GI結晶を用いた塑性変形の実験は放射光X線トポグラフによって続ける。とくに、転位の運動の定量的な観察を行うために、特別に設計されたインデンテションの装置によってトポグラフ観察を続けて行う。 このほかに高強度タンパク質結晶の育成を行う。これは、溶液成長によって得られた卵白リゾチーム結晶とグルコースイソメラーゼ結晶に対して添加剤を加えた2 種類の高強度化した結晶を育成し、強度の測定を行う。ひとつはゲル中で育成したタンパク質結晶である。現在、ゲル中で育成した卵白リゾチーム結晶が通常の溶液成長によって得られる結晶よりも力学的強度が増すことが報告されているが、その原因は不明である。そこで、放射光X線トポグラフでその場観察できる応力負荷実験を行うことにより、ゲル中で育成した結晶の高強度化の原因を解明する。 もうひとつはグルタルアルデヒドによって固定されたタンパク質結晶である。溶液成長法によって得られた卵白リゾチーム結晶をグルタルアルデヒド溶液に浸すことでグルタルアルデヒド分子がリゾチーム分子間に架橋し、結晶の硬さが上昇することが確認されている。化学的な固定を可能とするグルタルアルデヒドを用いた高強度化タンパク質結晶を用いて、放射光X線トポグラフにより応力負荷測定を行い高強度の原因を突き止める。前者は結晶の育成段階、後者は成長した結晶に対し、後から添加剤を付加するといった違いがあるが、2 種類のタンパク質の高強度化結晶の力学的な測定を行うことで、ゲルとタンパク質の複合材料として結晶のバイオマテリアルへの応用、あるいは化学的に固定された高強度化タンパク質結晶の実用化を目指す。
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Causes of Carryover |
平成29年度に購入を予定していたグリコースイソメラーゼ結晶の原料である高純度グリコースイソメラーゼ粉末の製造が一時停止されていたために購入できなかった。そのために実際の支出と予算の使用計画との差異が生じた。今年度、販売が再開される予定なので購入することにしている。販売の開始が遅れる場合は、一般に市販されている低純度グリコースイソメラーゼを購入し、研究室で精製し高純度化し実験に使用する予定である。
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Research Products
(10 results)