2017 Fiscal Year Research-status Report
空間反転対称性の破れた超伝導体の物性解明と上部臨界磁場の高度化
Project/Area Number |
16K06712
|
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
磯部 雅朗 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点・強相関物質グループ, グループリーダー (10354309)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新井 正男 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点・材料特性理論グループ, 主席研究員 (40222723)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 超伝導 / 強相関電子系 / 空間反転対称性 / 電子構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、空間反転対称性の破れた超伝導体を対象として、その異常な超伝導状態の性質を明らかにすること、そして、その臨界温度(Tc)に比して高い上部臨界磁場(Hc2)を持つ新たな超伝導体を開発することにある。具体的には、代表者が最近合成に成功した対称中心を持たない新しい超伝導体 SrAuSi3を取り上げ、試料の高品質化を図ると共に、その結晶構造と物性を詳細に調べる。電気抵抗測定、磁気測定、比熱測定、muSR(ミューオン・スピン回転)測定、第一原理バンド計算などを行い、超伝導特性、電子構造、超伝導パラメータ、超伝導ギャップ構造、クーパー対の対称性を明らかにする。さらに、希土類や遷移金属元素の置換を行い、強相関効果などを利用してHc2の高度化を図る。
平成29年度は、前年度に高品質化に成功したSrAuSi3の単相試料を用いて、その常伝導状態・超伝導状態を調べるためにNMR測定と横磁場muSR測定を行った。その結果、Asymmetryに超伝導磁束に起因する明瞭なミューオン回転シグナルが観測され、その減衰率から磁場の侵入長を温度の関数として求めることに成功した。希釈冷凍機温度(20mK)までの測定結果を踏まえた絶対零度近傍の磁場侵入長の温度傾きはほぼゼロであり、超伝導ギャップがほぼ均一に開いている(即ち、ギャップにはノードが無い)ことを示唆している。したがって、本系の超伝導は、空間反転対称性の破れた系の反対称スピン軌道相互作用によって分裂したフェルミ面上に生成するクーパー対に期待されるようなギャップレス状態ではないと考えられる。これは、電子比熱の低温励起・低磁場励起の結果、及び、第一原理計算から判明したフェルミレベル近傍でのスピン軌道相互作用が小さいことと整合する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、SrAuSi3の試料の良質化、結晶構造の精密化、電気抵抗測定・磁化率測定による超伝導特性の確立、電子比熱の低温励起・低磁場励起による超伝導ギャップ構造の検討、第一原理計算によるバンド構造とフェルミ面形状を明らかにした。さらに、muSR実験によって磁場侵入長の温度変化を測定し、絶対零度近傍ではその温度傾きがゼロであることから、均一に開いた超伝導ギャップ構造を持つs波超伝導であることがほぼ確立した。これは、反対称スピン軌道相互作用によるフェルミ面分裂が小さいことと整合する。SrAuSi3に関しては、その超伝導状態はほぼ解明された。他方、対称中心の無い新しい物質の探索を開始した。よって、ここまで順調に計画は進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、SrAuSi3に関しては、その超伝導状態は均一ギャップのs波的であることがほぼ解明された。これにより、本研究の目的の大部分は達成できたと考える。 今後は、同じBaNiSn3型構造を持つ新物質や、さらに異なる対称中心を持たない新しい超伝導物質を探索・開発することで、空間反転対称性の破れの効果による高い上部臨界磁場超伝導の実現を試みる。
|
Causes of Carryover |
(理由) H29年度は、試料合成・調整用の原料試薬や治具、結晶構造表示ソフトウェアの購入、及び、磁気測定依頼分析の費用とした。これまでの合成及び評価実験には備蓄済みの消耗品を使って進めたため、H29年度は余分には買い足す必要がなかった。 (使用計画) 原料試薬や高圧合成用の貴金属カプセル、実験用小物、測定用消耗品等の購入補充、及び、人件費・謝金などに使用する予定である。
|
Research Products
(4 results)