2016 Fiscal Year Research-status Report
母体の光吸収波長を利用した低温焼成新規高演色蛍光体材料の開拓
Project/Area Number |
16K06719
|
Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
奥野 剛史 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (70272135)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 蛍光体 / 希土類 / 発光 / 光材料 / 光物性 / エネルギー緩和 / ランタノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
ランタノイドイオン(Ln3+)を導入したイットリウムチオシリケート(Y4(SiS4)3)蛍光体を作製し、励起および消光の過程とその温度依存について議論した。 Ln3+としては、セリウム、プラセオジム、ネオジム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウムを用いた。Y4(SiS4)3母体のみの試料も作製して比較した。母体の吸収は300nmから400nmの領域に生じた。Ln3+イオンの直接吸収は、たとえばテルビウムの場合には487nmから471nmという狭い波長範囲であった。Ln3+の発光の内部量子効率は、母体で光吸収させた場合には11%から54&であった。一方Ln3+イオンを直接光励起した場合には、1.1%から65%の値であった。振動子強度の大きな4f-5d遷移のセリウム以外は、Ln3+イオンを直接に光励起した場合よりも、母体結晶を間接的に光吸収させた場合の方が1.5倍から10倍大きな値であった。Ln3+イオンを光励起した場合には非発光性のものも励起されること、そして、母体から発光性のLn3+イオンへのエネルギー伝達効率が極めて高いこと、が示唆される結果となった。 300Kから500Kの範囲で時間分解発光スペクトルを測定した。テルビウムの場合には、母体で光励起されてテルビウムにエネルギーが移る前に、母体内で不純物準位にエネルギーが移り熱に返還された。そのためにテルビウムではとくに高温にて十分な発光強度が得られないことがわかった。一方プラセオジムの場合には、母体内で熱に返還される前にプラセオジムが励起され、以降は1microsecの時定数で発光が減衰した。母体内の不純物イオンとLn3+のエネルギー準位の位置関係により、励起緩和過程が異なることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究が進展しつつあるLn3+を導入したY4(SiS4)3蛍光体について、研究ををすすめている。Ln3+を含まないY4(SiS4)3母体を作製し、詳細な光学測定を行った。バンドギャップを超えるエネルギー(325nm)あるいはバンドギャップ未満のエネルギー(442nm)の光を用いて励起した場合のスペクトルを測定した。結果を比較することにより、母体の不純物準位に関して詳細に検討した。450nmから800nmの波長領域に幅広の発光スペクトルとして生じた。 これまでは室温における測定が主であったが、550Kまで温度範囲を広げることができており、温度消光の起源に関する情報を得た。母体のバンドギャップよりも上の波長で光励起したときには、温度を上げることにより発光強度が室温の強度の1%にまで小さくなる場合があった。一方バンドギャップより下の波長を用いてLn3+イオンを直接励起した場合には、強度低下が30%に抑えられる場合があった。また、時間分解発光スペクトルにおいて、母体からの幅広のスペクトルと、Ln3+からの波長範囲の狭いスペクトルを分離して議論できた。母体の発光は20nsで減衰するのに対して、プラセオジムの発光は590nsとゆっくりとしたものであった。一方テルビウムの場合には34nsと、母体と同程度の値であった。その他の実験結果も含めて考察することにより、プラセオジムやエルビウムでは、母体の不純物準位に影響されずに比較的高温まで母体励起で発光強度が保たれることがわかってきた。一方テルビウムやジスプロシウムでは、母体に影響されてLn3+発光が高温で弱くなってしまうという結果になった。母体の不純物準位がLn3+からの発光におよぼす影響について、試料作製と詳細な光学測定により明らかにできてきている。
|
Strategy for Future Research Activity |
Y4(SiS4)3 などの硫化物母体で得られた知見を用いて、その他の有望なものも開拓する。Y2O2S, La2O2S, Gd2O2S, CaZnOS などの作製を試みる。通常よりも反応性の高い、硫黄蒸気下での固相反応法を用いる。酸化物の安定性と、硫化物における母体から蛍光イオンへの高効率のエネルギー伝達との特徴をあわせもつ期待がある。あるいはY2O3 にごく微量Sを導入することも試みる。他にも、通常の酸化物母体に蛍光イオンを導入するために、同様の方法、すなわち硫黄蒸気下での固相反応法を試みる。SrTiO3, BaTiO3, SrAl2O4 などを調べる。硫黄が付加的な不純物準位となり、硫化物母体などの場合と同様の高いエネルギー伝達が生じる可能性がある。また、新規なトラップ準位の形成により、長残光などの新機能が発現される期待もある。 様々な蛍光体材料において、同定が困難な欠陥準位が導入され、発光特性に影響を与えることがしばしばある。粉末X線回折の回折線幅を測定し、電子顕微鏡により蛍光体粒径や表面状態を調べるのはもちろんのこと、熱蛍光特性も評価する。低温において欠陥準位にトラップされていた電子が、温度上昇とともに開放されて発する蛍光を測定する。これにより、試料の導入されている欠陥準位を評価する。蛍光の強さや生じる温度により、欠陥の量やエネルギー深さを同定できる。得られた知見を用いて、新規蛍光体材料の開拓および、母体の光吸収波長を利用した高効率蛍光の機構解明をすすめていく。
|
Research Products
(6 results)