2017 Fiscal Year Research-status Report
母体の光吸収波長を利用した低温焼成新規高演色蛍光体材料の開拓
Project/Area Number |
16K06719
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
奥野 剛史 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (70272135)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 蛍光体 / 希土類 / 発光 / 光材料 / 光物性 / ランタノイド / 熱蛍光 |
Outline of Annual Research Achievements |
広い波長領域で発光する蛍光体(La,Y)6Si4S17:Ce3+ を新しくえた。光材料を用いて演色性を向上させるためには、複数種類の発光イオンを用いたり、複数サイトに位置する蛍光体母体を用いたりする必要がある。(La,Y)6Si4S17では Ce3+ は3種類のLaのサイトに位置し、430から700nm の範囲に発光を示す。母体結晶は三斜晶系(P-1)という低い対称性であり、発光波長領域を広げるのに寄与している。 固相反応法により、Laに対するCeの量が0から0.2までのものを作製した。Yを0.1加えることにより、粉末X線回折にて不純物相を示さない試料をえた。78Kでの詳細な選択波長励起発光スペクトルおよびその時間減衰を測定することにより、3種のCe3+発光を明瞭に分離することができた。典型的な減衰時間は30ns であった。ガウス関数によるCe3+の発光バンドを用いて、広い波長領域の発光スペクトルを再現した。吸収波長はCeの位置するサイトにより300nmから500nmの範囲に広く分布していた。 (La,Y)6Si4S17の結晶構造によると、Ce(La)とSとの配位数には、7, 8, 9 の3通りあり、(La,Y)6Si4S17:Ce3+ においても、Ce3+の発光波長と配位数等とを結びつける経験則によくしたがっていることが明らかになった。また、これまでに報告していたGd4(SiS4)3:Ce3+ やY4(SiS4)3:Ce3+ でも同じ経験則が成り立つことがわかり、酸化物やハロゲン化物だけでなくシリコン硫化物まで含んだ包括的なCe3+発光波長の経験則であると理解することができる。有用な蛍光波長をえるための指針を確立することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに研究をすすめてきたY4(SiS4)3 などに加えて、新たな酸化物や硫化物の蛍光体について研究をすすめている。性能の高い蛍光体に用いられるCe3+ を含んだ材料の発光波長と発光効率を制御して向上させることを試みている。 青から近紫外の蛍光体SrSl2O4:Ce3+,Ga3+ では、2通りの方法でGa3+ の添加を試みた。Sr, Al, Ce, Ga を含んだ原料を同時に混合して作製する方法とは異なり、母体SrAl2O4 を作製した後にGa3+ を加える方法では、発光が20倍増強された。粉末X線回折とラマン散乱測定を行うと、格子定数を保ったまま O-Al-O の変角振動の周波数が高波数にシフトしたことがわかった。Ga添加により導入されたひずみが発光増強をもたらしている可能性がある。 硫化物については、SrY2S4:Ce3+ が新しい赤色蛍光体であることを見いだした。600nm に発光ピークをもつ。Ce3+ から赤色発光が生じる例は極めて限られている。Gd3+ を添加することにより量子効率が1.9倍に増大した。20K での詳細な励起波長依存発光スペクトルを測定することにより、SrY2S4 の3種のSrサイトにあるCe3+ が強度比を変化させながら赤色発光を生じていることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの硫化物蛍光体で得られてきた知見を用いて、その他の有用なものを開拓する。Ce3+ のかわりに、振動子強度の大きなおなじ5d-4f遷移が生じるEu2+ も用いる。陽イオンおよびSiを含んだ硫化物の作製を試みる。Eu2+ の濃度依存、追加で添加する希土類イオンの種類、その濃度などを詳細に調べ、吸収と発光の波長と効率を議論する。 測定に関しては、電子顕微鏡で蛍光体の粒径と表面状態を調べる。微結晶表面と蛍光の強度を、電子線励起蛍光により評価する。蛍光体表面の非発光中心が低減して、母体から蛍光イオンへエネルギーが遷移して高効率発光が生じる際の表面の状態を明らかにする。また、室温において非発光欠陥準位にトラップされたキャリアの量を熱蛍光測定により評価する。光励起により非発光欠陥準位にキャリアが蓄積されていく過程を時間減衰発光で検出することを試みる。キャリア蓄積の励起波長依存を詳細に測定することにより、母体の吸収、母体から非発光中心への移動、発光中心への移動、等のエネルギーパスを明らかにする。そして、残光測定によりトラップからキャリアが自然に開放される過程を観測する。また、温度上昇とともにトラップから強制的に開放されて生じる発光強度を検出する。この測定からトラップのエネルギー深さを見積もる。これらの実験結果から有用な蛍光パスが実現するための知見をえる。測定対象は硫化物蛍光体に限らず、酸化物や酸硫化物蛍光体においても実験して議論する。
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