2017 Fiscal Year Research-status Report
押し込み「その場」ラマン分光と顕微光弾性解析による破壊直前のガラス構造の直接評価
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16K06730
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
吉田 智 滋賀県立大学, 工学部, 准教授 (20275168)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ガラス / 変形 / 破壊 / インデンテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度に作製したラマン分光測定用顕微インデンターを用いて,アルミノホウケイ酸塩ガラスの押し込み試験中およびクラック発生前後のガラス構造を初めて測定し,応力下におけるガラス構造とクラック発生挙動の関係を考察することが出来た。その点で,今年度もほぼ計画通りに研究を進めることが出来たと言える。 アルミノホウケイ酸塩ガラスは押し込み誘起クラックに対して高い耐性を有するため,15 Nの押し込み荷重でも負荷中にはラジアルクラックが発生しないことが分かった。一方,最大荷重を15 Nとしたときには,除荷中にラジアルクラックが発生し,クラック発生荷重は完全除荷直前の1~3 Nであることも確認することができた。アルミノホウケイ酸塩ガラスの押し込み負荷中には3員環のような比較的小さなリング構造に帰属されるピークの強度が増大するとともに,酸素5配位あるいは6配位のAlに帰属されるピーク強度も増大することが分かった。これらの構造変化はほぼ可逆的であるが,3員環に帰属されるピーク強度の増大のみが永久構造変化として凍結することが明らかとなった。アルミノホウケイ酸塩ガラスでは,完全除荷直前の ~1 Nまで高配位Alに帰属される散乱ピーク強度が低下することがなく,このように高圧下で形成される構造が安定に保持されることが高いクラック耐性の原因の一つと考えられた。押し込み試験によるクラックの発生は,押し込み軸直下で形成された歪んだガラス構造およびその構造の緩和と,押し込み除荷中に顕在化する引張応力という条件が複雑に重なり合うことが原因であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高いクラック耐性を有するガラスを用いて,クラック発生前後のガラスの「その場」ラマンスペクトルの取得に成功し,応力下におけるガラス構造とクラック発生挙動の関係を考察することが出来た。この点において本研究は目標に近い成果が得られていると言える。さらに,研究初年度の成果と併せて,ガラス組成と応力下の構造変化の関係を議論することが出来た。具体的には,非架橋酸素を有するガラスは応力下で非架橋酸素が架橋化することにより高密度化するのに対し,非架橋酸素の少ないアルミノホウケイ酸塩ガラスのようなガラスは,原子間結合角の分布の増大,すなわち不規則性の増大という構造変化により高密度化すると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
クラック発生前後のガラス構造を評価できたという点では計画通りに研究を進めることが出来たが,押し込み試験中にガラスの「その場」ラマンマップを取得し,押し込み圧子下の応力分布とガラスの構造変化を議論する点までは到達することが出来なかった。今後「その場」ラマンマップを取得すれば,クラック発生前後のガラス構造に,圧子下の「位置」情報を加えることが出来ることから,次年度はその点に注力したい。平成29年度は超小型顕微インデンターの試作にほぼ成功しており,その装置を用いて実験データを取得し,破壊直前のガラス構造についてガラス組成依存性,圧子形状依存性の観点からガラスの押し込み破壊に関して新しいメカニズムを提示したい。
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Causes of Carryover |
理由: 1.国際会議に研究協力者とともに参加する予定であったが,研究代表者のみの参加となったこと。2.国内学会参加費用を別途支出したこと。3.装置試作の費用を想定よりも抑えられたこと。 使用計画:ブラジルで開催される国際会議に於いて研究代表者が招待講演を行うとともに,国内で開催される2件の国際会議に研究協力者1名とともに参加・発表を行う。さらに,「その場」ラマンマップの取得を可能とする超小型顕微インデンターを完成させる。
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