2016 Fiscal Year Research-status Report
原子炉圧力容器を脆化させる析出相の結晶構造と機械的性質の解明
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16K06767
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
松川 義孝 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70566356)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牟田 浩明 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (60362670)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 金属間化合物 / 析出物 / 脆化 / 核形成 / 組成 / 固溶限 / 状態図 |
Outline of Annual Research Achievements |
化学量論組成(Ni16Si7Mn6)のG相の単相インゴットの作成に成功し、その融点・弾性率・剛性率・破壊靭性値のデータを取得することに成功した。G相の物性データを実験で取得した例は他にない。 Siと置換可能なFe濃度の上限を同定するために、50%置換(16Ni-3.5Si-3.5Fe-6Mn)と100%置換(16Ni-7Fe-6Mn)に相当する組成のインゴットを作成した。これも世界初の試みである。前者は、G相が二相ステンレス鋼に析出するときの組成の一つとして、申請者が最近発見した組成である。実験と並行して行った第一原理計算では、SiをFeと(一部もしくは全て)置換してもG相としての結晶構造(cF116構造)は不安定にならないという結果が得られたが、アーク溶解の実験では、これら2つの組成で作成したインゴットはG相単相にはならなかった。さらに1,000℃で100時間均質化熱処理を施した後に、低温(800、600、400℃)で100時間時効しても、これらのインゴットはG相単相にはならなかった。第一原理計算で構造が安定であると判定された場合でも、それは必ずしも熱力学的に安定な相(平衡組成)ではないことがわかった。また、熱力学的な平衡組成は、鋼に析出する析出物の組成とは必ずしも一致しないことも本実験でわかった。 50%置換のインゴットに含まれていたG相は、組成がNi16Si7Mn6ではなく、Siの一部(約30%)がFeに置換していることが明らかになった。Siと置換するFeの濃度はその後の熱処理によって変化したが、FeはSi以外の元素とも置換している場合があり、現象は複雑であった。Siと置換可能なFe濃度の上限については、今後さらに系統的な実験を行い、慎重に議論する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
インゴットの作成、物性の測定、機械的試験を予定通り開始することができたので、研究は順調であると自己評価している。 今年度に作成した50%置換と100%置換のインゴットにはG相以外の相も含まれており、この相の結晶構造を同定することが技術的な難関であった。この相を含むインゴットは脆くないため、化学量論組成のG相インゴットのように乳鉢で粉末化してXRD分析をすることができなかった。バルク材のXRD分析では一般に、結晶が配向しているため、構造を同定することが困難である。この問題を回避する手法として、インゴットをグラインダーで粉末にする手法を新たに考案した。この手法によって作成した粉末を分析することによって、非脆性インゴットに含まれる相がtP4構造のMnNiであることを明らかにした。この手法はG相の研究のみならず、あらゆるバルク材のXRD分析に応用可能である。この技術的ブレイクスルーは、本研究を企画していた時点では想定していなかった予期せぬ成果である。 100%置換のインゴットは結晶学的にはMnNi単相であった。このMnNiにはFeが置換固溶していることになるが、このようなtP4構造の金属間化合物はFe-Mn及びFe-Ni二元系状態図には存在せず、また三元系でMnNiにFeが置換固溶することを示した研究例は他にない。本研究を企画した時点で設定した具体的な目標は、原子炉圧力容器鋼に照射誘起析出するlate-blooming相(Ni-Si-Mn-Feクラスタ)とG相の関係を明らかにすることであるが、MnNiにFeが固溶しうるという発見もまた、late-blooming相の本質解明という本研究の究極目標に直接貢献する。この発見もまた予期せぬ成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
機械的試験に関しては、本年度にビッカース試験の他に引張り試験も試みたが、化学量論組成のG相インゴットはSiウェハ並みに脆かったため、引張り試験片の作成には未だ成功していない。本年度に試行錯誤した結果、インゴットの脆さは、G相自体が本質的に脆いことの他に、アーク溶解する際に導入されたクラックの有無にも大きく影響されることがわかった。インゴットにクラックがある場合には素手で簡単に割ることができるが、クラックがない場合は手で割れない程度の強度を有していることがわかった。次年度以降はこの点に留意して、引張り試験片作成の試みを続行する。具体的には、ブリッジマン法による単結晶作成を試みる。クラックがない試料を作成することは、信頼性の高い物性データを得るためにも必要不可欠である。物性測定に関しては、化学量論組成のG相の比熱容量・電気抵抗率・熱膨張率・熱伝導率を測定する予定である。 インゴットの作成に関しては、当初の予定では化学量論組成の元素比(16Ni-7Si-6Mn)を基準にして、Si置換、Ni置換、Mn置換についてインゴットの組成を系統的に場合分けして作成する予定だったが、この計画は少し修正が必要である。本年度に作成したインゴットの組成分析の結果、Feと優先的に置換するのは必ずしも狙った元素にはならないことがわかった。そのため、Feと優先的に置換する元素の序列を見極めることに主眼を置いた実験も新たに計画している。その目的のために作成するインゴットの組成は、1Ni-1Si-1Fe-1Mnや(16Ni-7Si-6Mn):Fe=9:1などである。それらのインゴットから得られたデータを踏まえた上で、G相と各元素の擬二元系状態図を作成するために有効なインゴットの組成を最適化しつつ、研究を推進する予定である。また、MnNiにおけるFeの固溶限調査と、MnNiの物性測定も併せて行う予定である。
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[Journal Article] Crystallographic analysis on atomic-plane parallelisms between bcc precipitates and hcp matrix in recrystallized Zr-2.5Nb alloys2017
Author(s)
Y. Matsukawa, I. Okuma, H. Muta, Y. Shinohara, R. Suzue, H. L. Yang, T. Maruyama, T. Toyama, J. J. Shen, Y. F. Li, Y. Satoh, S. Yamanaka, H. Abe
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Journal Title
Acta Materialia
Volume: 126
Pages: 86-101
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Reassessment of oxidation-induced amorphization and dissolution of Nb precipitates in Zr-Nb nuclear fuel cladding tubes2017
Author(s)
Y. Matsukawa, S. Kitayama, K. Murakami, Y. Shinohara, K. Yoshida, H. Maeno, H. L. Yang, T. Toyama, K. Yasuda, H. Watanabe, A. Kimura, H. Muta, S. Yamanaka, Y. F. Li, Y. Satoh, S. Kano, H. Abe
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Journal Title
Acta Materialia
Volume: 127
Pages: 153-164
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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