2016 Fiscal Year Research-status Report
チタンのマイクロ・ナノ微細突起物を利用した光触媒電極による水素生成の効率化
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16K06780
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Research Institution | Hiroshima Kokusai Gakuin University |
Principal Investigator |
中佐 啓治郎 広島国際学院大学, 工学部, 研究員 (80034370)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保 隆 広島国際学院大学, その他部局等, 講師 (60309622)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 構造・機能材料 / 触媒・化学プロセス / 光触媒電極 / 水素 / ナノ材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
エネルギ・環境問題を解決するため、クリーンで枯渇しない太陽エネルギの利用が望まれているが、その手段の一つに、光触媒を用いた水からの水素の生成がある。本研究の目的は、スパッタエッチングにより形成した微細突起物を利用して太陽光を最大限に吸収し、水素変換効率を高めることである。 平成28年度は、まず基礎的な研究として、工業用純チタンのスパッタエッチングを行い、突起物形成の有無、形成条件(スパッタエッチング電力、時間)、突起物の表面にさらに微細突起物を形成する方法の検討および突起物形成機構の解明を行った。その結果、たとえば酸素を0.11%含む工業用純チタンTP340をアルゴンイオンを用いて250Wで7.2ksスパッタエッチングすると、底面直径が約3μmの円錐状突起物が比較的高い密度で形成されることが分かった。また、酸素を0.031%しか含まない純チタンでは突起物が形成されないこと、酸素を0.32%含む工業用純チタンTP550ではTP340よりも短時間で突起物が形成されることも分かった。これらの結果およびX線回折・EDX・EBSD分析の結果から、スパッタエッチングの過程で酸化チタンがピラー状に析出し、これが起点となって突起物が形成されることが明らかになった。 つぎに、突起物試料を置く円板をタングステン、ニオブ、タンタルに変えてスパッタエッチングを行った。その結果、たとえばタングステン板に突起物試料を置き、250Wで3.6ksスパッタエッチングを行うと、突起物表面に幅が200nm程度の微細なリッジ状突起物が形成され、可視光線を95%以上吸収することが分かった。 また、光触媒効果測定用の装置を組み立て、予備実験として、突起物表面を大気中で酸化させた試料に人工太陽光を照射したところ、平坦試料に比べて約1.5倍水素発生電流が増加することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
工業用純チタンに突起物を形成し、さらにその表面にナノサイズの突起物を形成するという当面の目的は達成された。これにより、可視光線を効率よく吸収することも確かめた。さらに、従来から知られているように酸化チタンが光触媒反応を示すことも確かめ、円錐状突起物をもつ表面を酸化させると水素生成量が大きくなることも分かった。これは主として表面積の増加によるものと思われる。 工業用純チタンの他にSUS420J2鋼平板についても、スパッタエッチングにより微細な突起物が形成できることを確かめたが、当初予定していた突起物への酸化チタン薄膜のスパッタコーティングは行っていない。その理由は、どのような不純物や合金元素を含む酸化チタン薄膜が光触媒反応の向上に適しているかの予測が立てにくいためであり、まず各種の合金元素を含むチタン合金の酸化皮膜について光触媒実験を行い、その結果を参考にするのが光触媒薄膜を開発するのに効率的と判断したためである。そこで、2種類の工業用純チタンの他に、Ti-6Al-4V合金、TiAl合金についても、チタン酸化皮膜に光触媒性が現れるかどうかを調べたが、水素発生電流は低かった。このことは、チタン酸化物に含まれるVまたはAlが光触媒反応を支配するバンドギャップに影響する可能性およびVまたはAl酸化物の粒子または皮膜が光触媒反応を阻害する可能性があることを示唆していると思われるが、詳細は今後検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)工業用純チタンについて、平坦試料、底面直径が約3mmの円錐状突起物試料、その上にナノサイズのリッジ状突起物をもつ二重突起物試料について、表面大気酸化を行い、酸化時間(酸化皮膜の厚さ)、可視光線および赤外線吸収率、光触媒効率の関係を調べる。これにより、光触媒効果におよぼすナノサイズ突起物の効果を明らかにする。(2)突起物による光触媒挙動の時間的変化を調べる。予備実験によると、水素発生電流は時間とともに減少して一定の値に飽和する。その原因が酸素ガスの吸着によるものか、あるいは他の原因によるものかを明らかにし、太陽光照射直後の水素発生電流が継続できる方策を考える。(3)酸化チタンの構造を変化させるため、および酸化チタン中に不純物をドーピングするため、アルゴンガスに混合する酸素ガス、窒素ガス、メタンガスなどの割合を変えてスパッタエッチングを行う。これにより、突起物試料の光触媒効果が向上するかどうかを調べる。(4)Ti-6Al-4V合金以外の実用合金であるTi-15V-3Cr-3Al-3Sn合金、Ti-Pd合金、Ti-7Nb合金、TiNi合金など、まず市販の合金について突起物を形成させて酸化処理を行い、光触媒反応を調べる。酸化チタンの成分が変化すると光触媒効果が向上する可能性があるが、一方で表面反応が阻害される可能性もあるので、これについての基本的な情報を得る。(5)チタンと他の合金元素を含む合金を作製して、光触媒反応を調べる。(6)試料を置く台を、タングステン、ニオブ、タンタル、モリブデンと変化させ、円錐状突起物の表面にナノサイズの突起物を付与したのち酸化処理を行い、突起物表面に付着したこれらの粒子の酸化物が光触媒効果にどのような影響をおよぼすかを調べる。もし、悪影響を及ぼす場合は、スパッタエッチング後、付着粒子を除去する方法を考える。
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Causes of Carryover |
光触媒実験装置を構成する計測器のうち、当初購入予定のデジタル電圧・電流計とデータ保存装置(USBへ出力)を購入しなかった。その理由は、現在は使用していない古いものが大学にあったので、それを用いて予備実験ができたためである。また、赤外線吸収率の測定は外注で行うこととしていたが、太陽光のもつエネルギの大部分は可視光線で占められるので、可視光線の吸収率が大きく光触媒性能の大きいサンプルができたときに、赤外線吸収率の測定をまとめて依頼するほうが費用面で効率的と考え、赤外線吸収率の測定費用は来年度以降に残した。なお、可視光線吸収率は手持ちの装置で測定できる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Ti-15V-3Cr-3Al-3Sn、Ti-Pd、TiNi合金はすでに購入済みであるので、Ti-Nb合金その他JIS規格にあるチタン合金を購入する。これらの合金に微細突起物を形成させ、光触媒実験を行った結果をもとに、有望と思われる合金元素を含むチタン合金を外注により作製する。これは市販品ではないので相当の費用と時間がかかる。これと並行して、ターゲット用の金属板(チタンターゲットと組み合わせて分割ターゲットとして使用)を購入して、アルゴン・酸素混合プラズマによりSUS420J2鋼の突起物に種々のチタン酸化皮膜をスパッタコーティングする。これらのことにより、研究費用および期間の最適化をはかるとともに、光触媒反応に優れた突起物形成・酸化物皮膜形成プロセスを開発する。
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Research Products
(2 results)