2016 Fiscal Year Research-status Report
水素の高速拡散を実現する細孔制御層を導入した多孔質SUSへのPd薄膜化技術の確立
Project/Area Number |
16K06828
|
Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
加藤 雅裕 徳島大学, 大学院理工学研究部, 准教授 (80274257)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉山 茂 徳島大学, 大学院理工学研究部, 教授 (70175404)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 水素高速拡散 / ゼオライト中間層 / アルカリ処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
パラジウム(Pd)膜は水素を高選択的に透過することができるが、ハンドリングで優位な多孔質ステンレススチール(SUS)支持体上に、高選択性、高透過性、高耐久性のPd膜を製膜するには、以下の3点が求められる。1.Pd緻密膜の薄膜化、2.水素の高速拡散、3.SUS支持体を構成する金属のPd膜中への拡散の阻止。本研究では、金属拡散を阻止するバリア層としてゼオライトの一つであるシリカライトを採用した。支持体のもつマイクロ孔をミクロ孔をもつシリカライトで覆うことで、Pdの薄膜化に不可欠な支持体表面の平滑化と細孔制御が可能となる。さらに、シリカライト表面にアルカリ処理を施すことで、特に、Pd層からゼオライト層内への水素の高速拡散を実現し、水素の透過性を飛躍的に向上する。 今年度は、シリカライト層を多孔質SUS管上へ形成後、種々の濃度でアルカリ処理を施した。さらに、PdめっきによりPd膜を形成後、処理濃度が水素の透過性に与える影響を検討した。アルカリ処理の濃度としては、過去に報告したY型ゼオライトで採用した濃度(0.2 M)と、シリカライトの水熱合成時に採用した濃度(0.03 M)、さらにそれよりも低い濃度(0.01 M)を選択し、比較した。 その結果、0.01 Mで処理した膜は未処理膜に比べヘリウムに対する水素選択率がやや低下し、0.03 Mで処理した膜でも同様の傾向が見られたが、600℃では高い選択率を示した。アルカリ処理の溶液濃度が高い膜ほど、水素の拡散性は向上したが、0.2 Mで処理した膜では同時にヘリウムの拡散性も向上し、水素選択率は比較的低くなった。よって、バイオエタノールの水蒸気改質反応を想定した400℃での水素選択率を向上させつつ、高い水素パーミアンスを持つPd膜を得るためには、0.01 M~0.03 M間でのアルカリ処理濃度の最適化が必要であることがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は3種のアルカリ処理濃度を採用して、水素透過性とヘリウムに対する水素選択性の2つのファクターへの処理濃度の影響を詳細に検討することができた。まず、Y型ゼオライトに適用した際に水蒸気の拡散性向上に寄与した処理濃度(0.2 M)を、今回中間層として選択したゼオライトであるシリカライトに施した。その結果、高濃度のアルカリ処理により表面近傍の細孔が大きく拡大されたシリカライト上にめっきされたPd膜は、Pd膜の緻密性が低下し、400℃から600℃でのヘリウム透過性も大きくなり、水素選択性の大幅な低下をもたらすことがわかった。シリカライトの水熱合成条件で採用される濃度やそれより低い濃度では、未処理膜より選択性はやや低下したが、透過性が向上することを今年度見出し、我々の最終目標であるバイオエタノールでの水蒸気改質を想定した400℃での水素選択率向上と高い水素透過性を両立するためのアルカリ処理濃度範囲を決定することができた。この点において、今年度の研究成果は目標を達成しており、本研究課題を進めていく中で、おおむね順調に進展していると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では、水素透過性の向上に注目して、①中間層であるシリカライト層表面のアルカリ処理ならびに②Pd膜の薄膜化の2点を実現することを目標としている。今年度は、アルカリ処理が水素透過性向上に効果的に機能することを確認し、目標達成のアルカリ処理濃度範囲を決定できた。今後は、この範囲内での最適処理濃度の決定ならびにその濃度で処理されたシリカライト中間層上へPdめっきを施し、可能な限り薄いPd膜を得ることをめざす。得られた複合膜については、中間層であるシリカライト層の細孔構造が水素透過性に大きな影響を与えるため、シリカライト層の細孔構造を窒素吸着法により評価し、透過機構を検討する予定である。 さらに、実プロセスへの適用を実現するために重要となるのが膜の耐久性である。シリカライト層上に製膜されたPd膜に対して、長時間の耐久試験を施し、膜の耐久性を試験する。実プロセスでは、600℃程度での水素生成と室温でのメンテナンスのように膜の温度サイクルへの耐性が求められる。特に、水素脆化を起こすPd膜では、350℃以下では水素雰囲気にすることはできないため、350℃以上でガス雰囲気を水素以外のガスに置換後、降温する必要がある。本課題においてもヘリウムガスに置換後、降温し、室温でのヘリウム透過量を測定することで、水素透過試験前後での膜性能の比較を行う予定である。 以上のように、アルカリ処理により水素透過性を向上させたPd薄膜の製膜と実プロセスを念頭においた膜の耐久性向上の両方の実現をめざして研究を進めていく予定である。
|
Research Products
(5 results)