2016 Fiscal Year Research-status Report
自発的な酸素環境の変化に伴うiPS細胞の分化スイッチング現象の解析
Project/Area Number |
16K06875
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
中澤 浩二 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (00304733)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 胚様体 / マイクロウェルチップ / ハンギングドロップ / 酸素環境 / 増殖 / 分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
独自に開発したマイクロウェルチップ培養を利用して、iPS胚様体(EB)を取り巻く微小培養環境と細胞分化特性の関係性を評価した。 まず、チップ培養と従来技術であるハンギングドロップ(HD)培養において、胚様体初期サイズ(播種細胞密度)の違いがiPS細胞特性に与える効果を評価した。チップ培養における胚様体の増殖性はHD培養に比べて著しく抑制され、胚様体初期サイズに関係なく一定のサイズに到達することがわかった。また、チップ培養とHD培養の細胞分化特性は大きく異なる挙動を示した。HD培養では初期細胞密度が500cells/EB以下では血管系分化、1000cells/EB以上では心筋分化が促進されるのに対し、チップ培養では100cells/EB以下では血管系分化、500cells/EB以上では肝分化が促進されることを見出した。 また、培養系内への酸素供給能の違いがiPS細胞の特性に与える効果として、ガス透過性が低いポリメチルメタクリレート(PMMA)製チップとガス透過性が高いポリジメリルシロキサン(PDMS)製チップを作製し、iPS胚様体の数と初期サイズを一定する条件において細胞の増殖性と分化特性を比較した。その結果、PDMSチップの胚様体増殖性はPMMAチップよりも著しく高く、酸素供給環境の違いで細胞増殖性が異なることがわかった。また、PMMAチップでは肝および心筋分化が促進されるのに対し、PDMSチップでは血管系分化が促進され、HD培養に類似した分化特性へと変化することを見出した。 以上の結果から、iPS胚様体の分化スイッチングが起こる胚様体サイズ条件およびチップ材質条件を見出した。また、これらの現象から、胚様体を取り巻く酸素環境は幹細胞の初期分化に大きく作用する重要な因子の一つであることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は、iPS胚様体のチップ培養において分化スイッチングが起こるチップおよび培養条件を見出すことであった。 本年度の取り組みにおいて、胚様体初期サイズ(播種細胞数)と細胞分化の関係およびチップ材質と細胞分化の関係を明らかにすることができた。具体的には、初期サイズの小さな胚様体およびガス透過性の高いチップ条件では血管系分化、その逆に大きな胚様体およびガス透過性が低いチップでは肝分化が増強された。すなわち、これらの結果から、酸素供給が活発に行われる環境では血管系分化、低酸素環境では肝分化が促進されることを実証した。特に、チップのガス透過性を変えることでHD培養と類似あるいは全く異なる初期分化状態を作り出せることを見出した点は大きな収穫であり、これらの結果は微小培養環境制御の重要性とチップ培養の有効性を示すものである。 これらの実施内容は当初の計画通りに進行しており、本研究目標の第1段階をクリアした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、iPS胚様体を取り巻く微小酸素環境と細胞分化の関係性を詳細に検討すべく、以下の三つの検討を実施する。 (1)ガス透過性チップを用いたiPS胚様体の分化特性の評価:培養系内への酸素供給能が異なるPDMSチップ条件で胚様体培養を行い、酸素供給量と細胞分化特性の関係を明らかにすることによって、分化スイッチングが起こる境界条件を探る。 (2)胚様体内部の分化状態と酸素環境の関係性:胚様体内部の分化状態を評価するともに、胚様体近傍および胚様体内部の酸素濃度との関係性を評価することによって、酸素濃度が細胞分化と密接に関わっていることを明らかにする。 (3)ヒトiPS細胞を利用した分化スイッチング現象の評価:平成28年度の検討は操作性やコスト面に優れるマウスiPS細胞を利用したが、本研究をヒトiPS細胞で実施する意義は大きい。そこで、平成28年度および上記(1)の結果から得られるチップ条件を利用して、ヒトiPS胚様体でも同様な分化スイッチング現象が起こるかどうかを評価する。 これらの実施予定内容は、ほぼ当初の計画通りである。
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[Book] Advances in Microfluidics - New Applications in Biology, Energy, and Materials Sciences2016
Author(s)
V. Houbart, M. Fillet, E. Roy, A. Pallandre, B. Zribi, M.C. Horny, F.D. Delapierre, A. Cattoni, J. Gamby, A.M. Haghiri-Gosnet, S. Sugiura, K. Nakazawa, T. Kanamori, K. Ohnuma, 他
Total Pages
420(67-90)
Publisher
INTECH
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