2017 Fiscal Year Research-status Report
レアメタル代謝細菌における生物気化メカニズムの解明と気化回収開発
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16K06876
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
山下 光雄 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (40220347)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | レアメタル / セレン / 生物気化 / メカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
レアメタルは小型デジタル家電や、電気自動車のモーターや電池の材料として不可欠な元素であり、ハイテク産業での需要が急速に伸びている。レアメタルの中でも可採年数が短く、近い将来に枯渇が予想される鉱種は、急激な価格の乱高下が起こりやすい。さらにレアメタルは特定国に偏在し、囲い込みが起きている。このために資源が乏しく、世界でも有数のレアメタル消費大国である日本では安定供給に向けた対策が望まれている。 申請者は廃水や廃棄物からのレアメタル回収を可能とするアプローチとして、微生物による金属代謝(メタルバイオテクノロジー)の活用を提案している。生物のもつ高選択性を活かすことで、メタルバイオテクノロジーは廃水・廃棄物から金属を浄化・回収する技術になる。これまでに本技術を活用して廃水中からセレン(Se)を回収する技術開発に成功している。微生物によるメタルバイオテクノロジーの中でも生物気化 (バイオボラタリゼーション) は、レアメタル回収技術への活用が期待されている機能の一つである。バイオボラタリゼーション能を保有する微生物の分離やその応用に成功すれば、 レアメタルを温和な反応条件で容易に回収するプロセスの開発が可能となる。 本研究期間ではバイオボラタリゼーションを利用したレアメタルの1種であるSeの気化メカニズムを明らかにし、それを応用した回収技術を開発する。具体的には申請者等が単離したセレン酸還元細菌Pseudomonas stutzeri NT-I株の保有するSeをメチル化能や気化能に関するメカニズムを解明し、実廃水・廃棄物、汚染土壌からのSe気化回収試験と再資源化技術の構築を行う。これら一連の研究を通じて、既存技術では困難、または不可能とされている廃水・廃棄物、汚染土壌からのレアメタルのリサイクルを可能とし、本技術を広く他のメタルに汎用できる技術にすることを目指すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
培養工学による気化セレン回収の検討においては、NT-I株やDMDSe合成酵素遺伝子組換え大腸菌株をNT-I由来の元素態セレン(赤バイオセレン)を基質にして1000 ppm添加して培養したところ、12時間後にNT-I株では100%、DMDSe合成酵素遺伝子組換え大腸菌株では123%、ベクターDNA組換え大腸菌では7%の還元能を示した。GC-MS分析を行ったところ、NT-I株では主としてDMDSeを合成し、副産物としてDMDSeS, DMSe, DMDSが混合していたが、DMDSe合成酵素遺伝子組換え大腸菌株では主としてDMDSeを合成し、極少量DMDSeSが混在していた。以上のことから組換え大腸菌株を用いた方が高純度のDMDSeが回収できると思われる。 遺伝子工学によるメチル化セレン(気化セレン)合成遺伝子は昨年度の成果からクローニングに成功した。今年度は当該遺伝子を親株であるNT-I株に形質転換を試みた。大腸菌で常用されている塩化カルシウム法やエレクロトポレーション法では形質転換できなかった。細菌で形質転換実績のあるクリソタイル法による形質転換系の構築を試みたが、形質転換体を得ることはできなかった。並行してセレン還元メカニズムを調べるためにDMDSe合成酵素を大量精製するために組換え合成することを試みた。DMDSe合成酵素遺伝子をヒスチジンタグを付与した組換え遺伝子をTAクローニングベクターDNAに連結し、大腸菌を形質転換した。ヒスタグDMDSe合成酵素遺伝子組換え大腸菌は亜セレン酸を基質にして培養したところ、DMDSe合成酵素遺伝子組換え大腸菌と同程度に赤色に着色後に脱色した。以上のことから亜セレン酸から元素態セレンが合成され、元素態セレンがDMDSeに還元されたと示唆される。以上の結果からヒスタグDMDSe合成酵素が組換え合成され本反応を触媒したと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
培養工学による気化セレン回収の検討においては、処理時間の短縮と高純度のDMDSe回収を目指して、NT-I株とDMDSe合成酵素遺伝子組換え大腸菌株を培養し、液相、固相、気相中に含まれるSeを分析する。各測定結果からマスバランスや還元速度、DMDSe合成速度、Se回収率を計算する。以上の結果に基づいて気化回収技術開発の実用化を検討する。 遺伝子工学によるDMDSe合成酵素の精製と処理技術の確立に関しては、ヒスタグDMDSe合成酵素遺伝子組換え大腸菌を大量に培養して、ヒスタグDMDSe合成酵素を親和性クロマトグラフィーを用いて精製する。GC-MS分析により酵素活性や基質特異性など特徴解析を行い、セレン回収の向上を目指してセレン処理技術を確立する。
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Causes of Carryover |
元素態セレンからメチル化セレンを触媒する酵素をコードする遺伝子をセレン酸還元細菌NT-I株に導入し形質転換系の開発を試みたが、目的の形質転換体を得ることができなかった。そのために計上していた一般化学試薬費用と分析補助謝金の費用が安価になった。以上の事から、計上していた申請額を全て使用しなかった。 NT-I株を組換えてメチル化セレン合成酵素を大量に生合成できないと判断し、ヒスタグDMDSe合成酵素遺伝子組換え大腸菌からメチル化セレン合成酵素を大量に生産することを計画する。酵素精製のための一般化学試薬費用に充てる予定である。
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Research Products
(6 results)