2016 Fiscal Year Research-status Report
8員環ゼオライトとリン酸アルミニウム類縁化合物の水素同位体分離特性の評価
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16K06935
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
田口 明 富山大学, 研究推進機構 水素同位体科学研究センター, 講師 (40401799)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | トリチウム / 吸着 / 分離 / ゼオライト |
Outline of Annual Research Achievements |
重水素,トリチウムの分離は,核融合炉燃料サイクルにおけるトリチウムの分離,精製や,廉価な重水素製造など,重要かつ付加価値の高いプロセスである。同位体分離は低温ほど有利であるが,最近,ゼオライトの分子篩い能を利用して,170~190 Kにおける分離も報告されている。本研究では8員環を持つCHA型ゼオライトに着目し,その合成と物性評価,水素同位体の吸着・分離特性の評価を目指す。 本年度は,構造転換法によるK+を対カチオンとするCHA型ゼオライトの合成とその合成条件を決定した。その結果,FAUゼオライトを出発原料として,KOH水溶液との混合水溶液を100℃,96時間の水熱処理することにより,K+イオンを対カチオンとするCHA型ゼオライト(K-CHA)が得られることを確認した。さらに,NaOHあるいはCa(OH)2水溶液中で,100℃,3日間水熱処理することで,それぞれNa+,Ca2+にイオン交換を行った(それぞれNa-CHA,Ca-CHA)。また,XRD測定による構造評価,XRFによる元素分析,ならびに固体NMR測定により,これらCHA型ゼオライトは欠陥が多く含まれていることが明らかとなった。 得られたK-,Na-,Ca-CHAゼオライトの細孔構造を,77KにおけるN2吸着測定,および87KにおけるAr吸着測定から評価した。その結果,どのCHA型ゼオライトもN2吸着等温線が得られなかった。一方,Ca-CHAではAr吸着等温線が得られ,表面積と1 nm以下の細孔容積はそれぞれ282 m2/g,0.09 cm3/gと見積もられた。また,K-CHAとNa-CHAではAr吸着等温線が得られなかった。このことから,Na-,K-CHAの細孔径は0.340 nm(Ar原子径)よりも小さいことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の鍵となるCHA型ゼオライトの合成と合成条件の最適化を試みた。本年度はFAU型ゼオライトを出発原料とする構造転換法を検討した。FAUゼオライト(15.0 g)と6.9 wt% KOH水溶液(140.7 g)の混合水溶液を100℃,96時間,水熱処理を行った。XRDならびにXRF測定の結果,K+イオンを対カチオンとするCHA型ゼオライト(K-CHA)が得られたことが分かった。続いて,K-CHA(1.5 g)に対しNaOHあるいはCa(OH)2水溶液(0.5 mol/L,5mL)を添加し,100℃,3日間水熱処理することで,それぞれNa+,Ca2+にイオン交換を行った(それぞれNa-CHA,Ca-CHA)。 固体NMR測定により,これらCHA型ゼオライトは欠陥が多く含まれていることが明らかとなった。また,N2吸着ならびにAr吸着等温線の測定を行った。しかしながら,どのCHA型ゼオライトも明瞭なN2吸着等温線が得られなかった。これに対し,Ar吸着測定ではCa-CHAでは吸着等温線が得られ,表面積282 m2/g,1 nm以下の細孔容積0.09 cm3/gと見積もられた。一方,Na-CHA,K-CHAではAr吸着等温線は得られなかった。このことから,Na-,K-CHAの細孔径は0.340 nm(Ar原子径)より小さいことが推測される。今後,これら合成したCHA型ゼオライトについて,H2吸着,D2吸着測定を行う。 また,本年度は,モルホリンを構造規定剤に用い,リン酸と水酸化アルミニウムを出発原料としたCHA型構造を有するリン酸アルミニウムの合成も検討した。XRD測定の結果,CHA型リン酸アルミニウムの合成が確認出来た。しかしながら,耐熱性が低く,多孔体化が出来なかった。この系は今後,溶媒洗浄,焼成条件の変更等で引き続き検討していく。
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Strategy for Future Research Activity |
水素ならびに重水素の吸着等温線の測定を行う。ここでは合成したNa-,K-,Ca-CHA型ゼオライトについて,初めに液体窒素温度のH2ならびにD2吸着等温線を測定する。続いて,液体アルゴン温度,エタノール/ドライアイス(-72℃)温度による,H2ならびにD2吸着等温線を測定し,CHA型ゼオライトの水素同位体吸着特性を評価する。水素同位体の吸着量の差,ならびに水素吸着量の変化から,同位体分離に適したCHA型ゼオライトを選定する。 続いて,動的同位体効果の検討を試みる。定容吸着装置を用い,ガス:吸着材重量比を一定とし,ガス圧力変化から吸着速度を測定する。ここでは,液体窒素温度,液体アルゴン温度,エタノール/ドライアイス温度による吸着速度を測定し,活性化エネルギーを評価する。 さらに本年度は,合成したCHA型ゼオライトの高結晶化を検討する。K-CHAとそのイオン交換により,Na-,Ca-CHA型ゼオライトが得られるが,非交換性のK+の存在が認められた。本年度はCHA型ゼオライトの合成方法を改良し,欠陥数の抑制を検討する。
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Causes of Carryover |
当初予定していたCHA型ゼオライトの合成には高価な構造規定剤の使用を予定した。しかしながら,より安価・簡便な方法で,再現よく目的生成物を得ることが可能になったため,試薬類の購入費用が減少した。これにともない,当初導入予定であった実験装置の購入を変更した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後,研究を遂行するにあたり,重水素(300千円×2)の購入が予想される。また,非管理区域と管理区域の水素吸着装置の設置・改造が必要となり,その測定部品と測定容器を購入予定である。
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