2016 Fiscal Year Research-status Report
ヒト大脳皮質様オルガノイドを用いた脳疾患の病態解明
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16K06996
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
沼川 忠広 熊本大学, 発生医学研究所, 特定事業研究員 (40425690)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | iPS / 大脳皮質 / オルガノイド / 神経細胞 / 脳疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳皮質様オルガノイドを用いた病態解析を目的として、まず健常iPS細胞を用いて大脳皮質様オルガノイドの培養条件の最適化を試みた。そして神経幹細胞の増殖に適した培地での2週間の培養後、神経分化に適した培地に切り替えることにより、再現よく大脳皮質層を含むオルガノイドの誘導に成功した。また、オルガノイドを用いた解析に先駆け、2次元分散培養による疾患ニューロンの作出を同時に行った。結果を以下に示す。 (1)メープルシロップ尿症(MSUD):MSUDは、分岐鎖ケト酸脱水素酵素の活性低下により、分岐鎖アミノ酸BCAA(ロイシン、イソロイシン、バリン)およびその中間代謝物の分岐鎖α-ケト酸の異化が障害され、体内に蓄積する。患者の血中BCAA濃度と神経症状が相関を示すことから、高濃度のBCAAによる神経毒性を考えた。まず、急性の高濃度BCAA曝露を行ったところ、健常・病気いずれにおいても細胞死が誘導されることを見出した(未発表)。健常ニューロンにおいても毒性を示したことから、細胞内BCAA代謝ではなく、細胞外のBCAA濃度にも依存している可能性が示唆され、検討を実施している。 (2)副腎白質ジストロフィー(ALD):ABCD1遺伝子の欠失により極長鎖脂肪酸の細胞内蓄積が生じる疾患である。まず、疾患iPS細胞より神経前駆細胞を経たニューロンを誘導した。しかし、健常・病気ニューロンにおいて細胞生存率、神経突起長に有意な差は見られず、今後、神経機能解析を行っていく予定である。 (3)プロピオン酸血症:プロピオニルCoAカルボキシラーゼの活性低下により、体内にプロピオン酸を含む有機酸が蓄積する疾患であるが、まず健常ニューロンにプロピオン酸曝露を実施した。しかし、細胞死などの顕著な影響は見られず、現在は数クローンの疾患幹細胞の樹立を進行中であり、健常および疾患ニューロンでの差異を見出すことを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大脳皮質様オルガノイドは、その組織内で大脳皮質様の神経層構造を形成するまでには、長期的な培養維持を必要とすることがわかった。そのため、効率のよい神経分化法を確立するため、培養条件の検討を最初に行うが、年度内に生じた熊本地震のために居住設備、培養装置の故障等が著しく、それを理由とした中断を余儀なくされた。しかし、年度の後半では主に健常者iPS細胞由来の大脳皮質様オルガノイドの長期培養には成功し、各神経層のマーカー発現測定用のサンプル回収は非常に順調に進んでいる。特に、三次元培養開始後、2か月以内の大脳皮質様オルガノイド内において、順調に神経分化が進んでいることは既に確認した。解析では、4-5か月の長期にわたるオルガノイドの成熟を行うが、これは既に進行中である。今後は、疾患iPS細胞由来のオルガノイドの作成が必要であるが、既に樹立した培養条件を用いて順調に計画が進むことが期待できる。初年度の健常大脳皮質様オルガノイド作成から得られた情報を基に、疾患特異的な組織病態に関する知見の取得が可能となる。さらに並行して、特にメープルシロップ尿症および副腎白質ジストロフィーにおける神経幹細胞の樹立に成功した。また、神経幹細胞を分散培養し、さらに神経分化したニューロンを得ることに成功した。そして、いくつかの病態を反映した環境下を模倣した実験により、解析結果が得られつつある。プロピオン酸血症に関しても計画を同様に進める予定であり、総合的に判断して、本研究課題はおおむね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に確立した培養法を用いて、疾患iPS細胞を用いた大脳皮質様オルガノイドの作出を行う。現在、健常iPS細胞由来のオルガノイドを用いて、3か月間以上にわたる長期培養を継続的に行い、重要と思われるタイムポイントにてRNAサンプルの回収を行っている。疾患オルガノイドについても、同様のタイムスケジュールでサンプルの回収を行い、大脳皮質の各層特異的なマーカー分子等の発現量を測定する予定である。その後、各マーカーの発現を健常オルガノイドと比較し、大脳皮質発達の程度を精査する。また、同じタイムポイントにおけるオルガノイドにおいて免疫染色を行い、大脳皮質層形成における質的変化を解析する。3次元培養系に加え、前年度に引き続き、2次元培養系における表現型解析も並行して行う。 (1)メープルシロップ尿症:急性BCAA曝露モデルにおいては、疾患ニューロン特異的な脆弱性は見られなかった。しかし、病態における慢性期での神経障害には、神経細胞内のBCAA代謝障害が関与している可能性がある。そこで、外部からのBCAA負荷ではなく、健常・疾患ニューロンを長期培養した際の機能変化を検討する。 (2) 副腎白質ジストロフィー:前年度の結果から、疾患ニューロンにおいて、通常の培養条件では細胞死や形態異常といった変性は見られなかった。そこで、疾患ニューロンの神経機能を特に電気生理学的手法で解析し、健常ニューロンとの差異を検証する。また、病態発現に炎症などの外部要因の寄与の可能性を考慮し、炎症性サイトカインや酸化ストレスに対する脆弱性を精査する。 (3) プロピオン酸血症:大脳皮質様オルガノイドの作成に並行して、分散培養系における長期培養を実施する。健常ニューロンに対するプロピオン酸曝露や、疾患ニューロン樹立を行った後、脆弱性の有無を神経細胞死、機能の両面から多角的に解析する。
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Causes of Carryover |
大脳皮質様オルガノイドは、解析を目標としている大脳皮質様の神経層構造を形成するまでには、4-5か月に及ぶ長期的な培養維持が必須であることがわかってきた。しかし、2016年度内に生じた熊本地震のため、基本設備の破壊や損傷等が著しく、年度前半は培養等、実験の中断を避けられなかった。そのため、大脳皮質様オルガノイド作成における培養、並行して実施している二次元培養系に必要な添加試薬や培地、組織解析に用いる抗体等の購入は29年度以降に必要になってくる。また、作出した大脳皮質様オルガノイドや、長期培養を行った分散ニューロンの機能的な解析のためのランニングコストは今後生じてくる。以上の理由で、28年度において、研究費の繰り越しが生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
4-5か月の長期的な大脳皮質様オルガノイドの培養維持のためには、最適化した条件に含まれる因子、添加試薬類の購入が必要である。また、基礎培地においても、今後健常iPS細胞由来のものに加えて、各疾患iPS細胞由来のものが必要になる。これらをシステマティックに行っていく。また、大脳皮質様の神経層構造を定性・定量的に解析するためには、mRNAレベルでのアプローチに加えて、組織染色に優れた特異的抗体が多量に必要になるのでそれらを購入する。大脳皮質様オルガノイドに加えて、長期培養した健常、および疾患群における成熟ニューロンの神経機能解析を、電気生理学的アプローチや、リアルタイムイメージングシステムを用いて行うが、これにはカルシウム指示薬などの薬剤が必要である。また、神経を長期維持するためのガラスボトムディッシュやパッチに用いるガラス電極などに相応の費用を有する。
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[Journal Article] Generation of a novel transgenic rat model for tracing extracellular vesicles in body fluids.2016
Author(s)
Yoshimura A, Kawamata M, Yoshioka Y, Katsuda T, Kikuchi H, Nagai Y, Adachi N, Numakawa T, Kunugi H, Ochiya T, Tamai Y.
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 6
Pages: 31172
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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