2016 Fiscal Year Research-status Report
片眼遮蔽により視覚野のシナプスに誘発される可塑的変化
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16K07012
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
小松 由紀夫 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 特別協力研究員 (90135343)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 経験依存的発達 / シナプス可塑性 / 眼優位可塑性 / 視覚野 |
Outline of Annual Research Achievements |
片眼遮蔽により視覚野のシナプス伝達に誘発される可塑的変化は未だ明らかにされていない。ラット視覚野では、感受性期に片眼遮蔽すると遮蔽3日で遮蔽眼刺激に対する反応の減弱が出現し、遮蔽4日以降には非遮蔽眼刺激に対する反応の増強も見られる。本研究では、神経活動依存的な遺伝子発現プロモーターE-SAREを用いて同側(非遮蔽)眼刺激に反応する視覚野細胞(非遮蔽眼優位細胞)をあらかじめ蛍光標識した視覚野スライス標本に、ケージドグルタミン酸を用いるレーザースキャン光刺激法を適用して、片眼遮蔽により視覚野2/3層錐体細胞の興奮性シナプス伝達に生じる可塑的変化の解析を計画した。本年度は以下の成果が得られた。遮蔽3日では遮蔽眼優位細胞に変化が出現し、2/3層及び4層細胞刺激により誘発されるunitary EPSC(uEPSC)の数が減少した。遮蔽6日では、遮蔽眼優位細胞における4層由来のuEPSCの数の減少は持続していたが、2/3層由来のuEPSCの数は元に戻った。非遮蔽眼優位細胞においては遮蔽3日ではuEPSCに変化は見られなかった。遮蔽6日では、2/3層と5層細胞刺激により誘発されるuEPSCの数の増加と、2/3、4、5層細胞刺激により誘発されるuEPSCの振幅の増大が見られた。細胞外液のCa2+をSr2+に置換してEPSCの量子振幅を測定したが、EPSCの量子振幅に顕著な変化は見られなかった。以上の結果は、片眼遮蔽の間に視覚入力を強く受けた錐体細胞とあまり受けなかった錐体細胞のシナプスに異なる可塑的変化が生じることを示す。片眼遮蔽により2/3層錐体細胞への興奮性シナプス伝達に生じる可塑的変化は主にシナプスの数あるいは伝達物質の放出確率の変化によるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度計画した実験は予定通り行うことができた。しかし、予想外の結果が1つあった。本研究では、E-SAREを用いて非遮蔽眼を1時間刺激して非遮蔽眼刺激に反応する視覚野細胞にGFPを選択的に発現させて、非遮蔽眼優位細胞を可視化した。3日間の片眼遮蔽では非遮蔽眼刺激に対する反応の増強は一部の2/3層細胞に生じるだけであると報告されてきた。しかし、3日間の片眼遮蔽でGFP陽性細胞の割合が明確に上昇した。一方、非遮蔽眼優位細胞のuEPSCには何ら変化が認められなかった。この結果の説明として2つの可能性が考えられる。一つは、非遮蔽眼優位細胞の興奮性の上昇である。他の一つは、抑制性伝達の低下である。後者に関する解析は30年度の計画に入っていたが、前者に関する解析は予定していなかった。したがって、前者の可能性の検討も29-30年度に実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29-30年度は、前項で記載した実験を追加して当初の計画通りに研究を進める。興奮性シナプス伝達については、シナプスに起こる変化を特定するために、ペアード・パルス刺激による解析を行い、シナプス前からの伝達物質の放出確率が変化するか検討する。抑制性シナプス伝達の可塑的変化に関して、興奮性シナプス伝達の解析と同様な方法による解析を行う。更に、薬理的方法あるいは遺伝子改変動物を用いて、非遮蔽眼反応の増強、あるいは遮蔽眼反応の減弱を阻止した状況で、野生型動物と同様な解析を行い、片眼遮蔽により興奮性及び抑制性シナプスに可塑的変化を引き起こすシナプス可塑性の種類を明らかにする。
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Causes of Carryover |
実験が順調に進んだため、予定していたよりも少ないラット数及び薬品で研究できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度に計画している実験は本年度より難易度が高いため、本年度より多くの動物と薬品が必要である。主にその物品費に使用する。
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Research Products
(1 results)