2017 Fiscal Year Research-status Report
Cpox変異マウス系統群を用いた加齢白内障発症機序の解明
Project/Area Number |
16K07086
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
森 政之 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (60273190)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 白内障 / 遺伝子 / コンジェニック系マウス / ポルフィリン症 |
Outline of Annual Research Achievements |
Cpox遺伝子に活性低下型突然変異をもつマウス系統群を用いて、白内障の発症を遅延/早期化する修飾遺伝子の同定を進めた。 第3染色体上の早期化遺伝子に関しては、(第3染色体コンジェニックx BALB.NCT-Cpoxnct)F1 x BALB.NCT-Cpoxnct戻し交雑仔群を作出し、D3Mit208 (26.57 cM)とD3Mit315 (50.09 cM)の間の領域のハプロタイプと白内障発症までの日数を調査した結果、早期化遺伝子の存在範囲はD3Mit39 (47.69 cM)よりもセントロメア側であることが確認された。42.03 cMの位置に存在し、かつその変異が白内障を生じさせることが知られるgap junction protein, alpha 8 (Gja8)遺伝子を解析した結果、MSM系マウスに特異的なI345Rアミノ酸置換を生じるミスセンス変異を同定した。 第16染色体の修飾遺伝子に関しては、BALB.NCT-Cpoxnctの遺伝的背景にNCT由来の第16染色体のD16Mit32 (2.33 cM)~D16Mit45 (30.66 cM)の領域を導入したダブルコンジェニック系マウス(BALB.NCT-Cpoxnct-Chr 16NCT)を確立することにより、この領域に白内障早期化遺伝子が存在することを確認した。NCT系マウスの全ゲノム解析塩基配列データを取得し、当該染色体領域内での塩基変異多型を検索した結果、その変異が白内障を生じさせることが報告されているarmadillo repeat gene deleted in velocardiofacial syndrome (Arvcf)遺伝子に2ヵ所の3塩基挿入/欠失多型を見出した。 これらの遺伝子変化が、白内障の発症を遅延/早期化する原因であることが強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
白内障の発症を遅延/早期化する修飾遺伝子の染色体存在領域の限局化を目的としたコンジェニック系マウス、およびそれを親系統とした戻し交雑仔群の育種は、順調に世代を進めることができている。これらのマウスを用いて、予測通りに当該染色体領域に修飾遺伝子が存在することを支持するデータが得られている。特にNCTマウスの第16染色体上の白内障早期化遺伝子の効果は強く、解析が容易に進む一因となっている。逆にMSMマウスの第3染色体上の白内障発症早期化遺伝子の効果は弱いことが示唆され、発症時期は個体ごとのバラツキが予期していた以上に大きく、その存在領域の限局化にはさらなる個体数が必要である。 また、副次的成果として、NCTマウスに認められるwavy coat/強皮症様皮膚病変の原因候補遺伝子の同定に成功した。 しかしながら、NCT系マウスは仔の成育が悪く、全個体が離乳前に死亡してしまうトラブルがあった。そのために、他のリソースから新たに雌雄個体を導入して繁殖を再開した。仔を里親保育につけることで離乳前での死亡をある程度回避できたが、眼球レンズなどの解析材料の入手が一時的に滞った。 また、CRISPR/Cas9系を利用したゲノム編集システムの立ち上げが遅延したために、遺伝子改変マウスの作製を通じた候補遺伝子内の塩基変化の白内障発症早期化に対する因果性の検証を行えなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
第3染色体、および第16染色体に関するサブコンジェニック系マウスの育種を継続し、白内障発症を遅延/早期化する修飾遺伝子の存在領域の限局化を進める。 平行して、これまでに同定した候補遺伝子である第3染色体上のgap junction protein, alpha 8 (Gja8)遺伝子、および第16染色体上のarmadillo repeat gene deleted in velocardiofacial syndrome (Arvcf)遺伝子について調査を進める。 ギャップジャンクション蛋白であるGJA8におけるI345Rアミノ酸置換の効果、および細胞接着因子であるARVCFタンパク質におけるp.Gly172del、およびp. Ser604-Thr605 ins Thrの効果を、培養細胞での強制発現系により検証する。 CRISPR/Cas9システムを利用したゲノム編集技術により、BALB.NCT-Cpoxnctの第3染色体上のGja8遺伝子にMSMマウス型の塩基置換を導入する。また、同様に第16染色体上のArvcf遺伝子に見出された2ヵ所の3塩基挿入/欠失多型をそれぞれNCTマウス型に変換された遺伝子改変マウスを作出する。もしもこれらのマウスにおいて白内障発症時期が早期化したならば、それらが白内障遅延遺伝子であることが確定できる。
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Causes of Carryover |
CRISPR/Cas9系を利用したゲノム編集システムによる遺伝子改変マウスの作製を行う予定であった。所属機関の基盤研究支援センター動物実験支援部門において、外部業者に委託する場合と比較してはるかに安価でできるシステムの立ち上げが計画された。しかしながら、システムの立ち上げが平成30年度に繰り越されたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は平成30年度請求額と合わせて以下のように使用する予定である。 物品費は、実験用マウス(BALB/c、NCT、MSM/Ms)、遺伝子クローニング、細胞培養、ゲノム編集に必要な試薬類、その他の消耗品(プラスチックチューブなど)の購入に充当する。旅費は、本研究成果の発表のために7月に静岡市で開催される老化促進モデルマウス(SAM)学会研究発表会への出張を予定しており、その費用として使用する。人件費は、マウスの飼育補助を依頼する大学院生への謝金として使用する。その他の費用は、ゲノム編集システムによる遺伝子改変マウスの作製を所属機関の基盤研究支援センター動物実験支援部門に委託する費用、マウス飼育費用、および研究成果投稿料(英文校閲を含む)として使用する。
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