2016 Fiscal Year Research-status Report
RNF43による恒常性の維持とその破綻によるがん化メカニズムの解明
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16K07105
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
築山 忠維 北海道大学, 医学研究科, 助教 (20399819)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | RNF43 / Wnt / Fzd / Dvl / がん / 突然変異 / 幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
幹細胞特異的に発現するユビキチンリガーゼであるRNF43は、大腸がん、膵臓がん、胆管がんなど多岐にわたるがんで高発現していることが報告され、また高頻度で突然変異が同定されてきた。しかし、長らくそのがん化に関与する分子メカニズムは不明であったが、ここ我々を含む複数のグループによってその分子メカニズムが明らかになりつつある。 我々は以前、RNF43ががん抑制遺伝子p53による下流遺伝子の転写活性化を抑制し、またその結果細胞死を抑制することにより発がんに関わること、Wnt受容体であるFrizzled (Fzd)タンパク質の発現を低下させることで、その破綻が発がんに関与することが有名なWntシグナルの抑制を行っていることを報告してきた。その中で、がん患者さんから同定されたRNF43の点突然変異はRNF43自身の細胞内局在異常を引き起こし、Fzdの分解不全による蓄積がWntシグナルの異常活性化、そしてシグナルを負に制御するフィードバックループの崩壊と暴走が発がんの一因となっている分子メカニズムを提唱してきた。 そこで次に我々は、RNF43による恒常性の維持メカニズムへの更なる理解を求め、RNF43の翻訳後修飾によるWntシグナル・発がんの制御機構の解明にアプローチした。その結果、RNF43のリン酸化と細胞ストレスにより引き起こされるプロセッシングによってWntシグナルが調節されていることを見出した。また、これらRNF43の翻訳後修飾はがん患者より同定された遺伝子変異によって大きく影響を受けることも明らかにした。これらの結果からRNF43の機能異常によりWntシグナル調節機構の破綻と発がんの分子メカニズムの理解は大きく前進したので、今後はRNF43-p53の発がん経路についても明らかにし、RNF43の機能異常による発がんプロセスを統合的に理解していきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、RNF43がWntシグナルを介して個体の恒常性を維持するメカニズムと、その破綻によるがん化メカニズムの統合的な解明を目指した。 その結果、RNF43の機能調節に関与するリン酸化メカニズムの解明では、RNF43の活性化(Wntシグナルの抑制)には、細胞内ドメインの4つのセリン残基が決定的な役割を担っていることを明らかにした。また、このセリン残基は細胞内で恒常的にリン酸化されており、セリンリン酸化がRNF43の機能を調節する分子スイッチの役割を果たしていることを解明した。しかしながら、当初予定していたRNF43のセリンリン酸化を支配する上流のシグナル・リン酸化酵素の同定は難航しており、現在までに決定的な候補は得られていないのが現状である。 RNF43の切断機構の解明では、RNF43ががん細胞特有のストレス刺激依存的に切断を受けることが、Wntシグナル調節に重要な役割を果たしていることを明らかにした。その際に、がん患者から同定された機能不全型(発がん型)の点突然変異をもつRNF43は、プロセッシングを受けないことを見出した。この結果から、プロセッシングに耐性となる変異がRNF43によるがん化メカニズムの一端を担う可能性も示唆された。 RNF43による幹細胞の分化調節機構の解明では、RNF43の発現が幹細胞の適切な自己複製や分化制御による幹細胞の維持機構についてのアプローチを行った。その結果、RNF43は幹細胞が分化するに伴い発現が低下することを見出した。そこでRNF43の発現調節機構を明らかにするためプロモーターを解析した結果、幹細胞特異的に発現する転写因子の結合部位を複数同定した。
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Strategy for Future Research Activity |
RNF43によるWntシグナル調節機構と発がんとの関連は、昨年度までの研究によりその遺伝子変異によるWnt受容体の発現調節異常と翻訳後修飾(リン酸化によるRNF43の活性制御と細胞ストレスによるRNF43のプロセッシング)の面からも、明らかになってきている。 今年度はまず、現在投稿の準備を行っている”リン酸化によるRNF43の活性制御機構の解明”を国際学術雑誌へ投稿し、発表を行う。また、未だ同定に至っていないRNF43のリン酸化酵素とその上流シグナルの同定を行う。さらにもう一つの翻訳後修飾であるプロセッシングについても、その切断メカニズムの解明と切断産物の生理活性の詳細な検討を行う。さらに、切断産物の検出法の検討なども行い、疾患の診断に利用できるか検討する。これらの結果をまとめて、来年度での論文投稿を目指す。 さらにRNF43は重要ながん抑制遺伝子として知られるp53依存的な細胞死に関与することが知られているが、その分子メカニズムは全く分かっていない。そこで発がん型の変異RNF43や、RNF43のリン酸化やプロセッシング塔の翻訳後修飾がどのようにp53依存的な細胞死、ひいては発がんへ関与しているのか、まずはレポーターアッセイを指標に推進していく予定である。 最終的にはRNF43-Wntシグナル経路、RNF43-p53経路がどのように協調しながら発がん抑制を行っているのか、その分子機構を明らかにしたい。 さらに発がんだけでなく、幹細胞の維持メカニズムについてもRNF43の関与を検討するため、分化誘導実験と幹細胞特異的転写因子を標的としたChIPを組み合わせて行っていく予定である。
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Research Products
(4 results)