2017 Fiscal Year Research-status Report
成人T細胞白血病(ATL)における低酸素ストレス応答機構の解析
Project/Area Number |
16K07120
|
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
中畑 新吾 宮崎大学, 医学部, 講師 (80437938)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 低酸素 / ATL / NDRG2 / PI3K/AKT |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はN-myc downstream-regulated gene 2 (NDRG2)を成人T細胞白血病・リンパ腫 (ATL)のがん抑制遺伝子候補として同定、ATLやその他の癌におけるNDRG2の発現低下がPTENのリン酸化を促進・不活化し、AKTの恒常的な活性化を来していることを同定した。NDRG2はPP2Aに結合、PTENへのリクルートメントを介し、PTEN- S380/T382/T383 (STT)の脱リン酸化を促進する。一方、NDRG2はPI3Kのフィードバックとして血清/糖質コルチコイド調節キナーゼ-1 (SGK1)によりS332残基のリン酸化修飾を受け、このS332リン酸化はNDRG2とPP2Aとの結合を促進する。SGK1はNDRG2リン酸化制御を介し、癌細胞の低酸素応答に重要な役割を持つ可能性がある為、今回、ATLにおけるSGK1依存的なNDRG2リン酸化制御を詳細に解析した。ATLにおけるSGKファミリー (SGK1, SGK2, SGK3)の発現を解析した所、ATL細胞株及びATL患者由来白血病細胞において、SGK1が安定に発現することを同定した。SGK1はATL細胞株の多くでそのリン酸化が亢進、活性化されるが、SGK1阻害剤の投与は、多くのATL細胞株の増殖を抑制した。NDRG2とSGK1の結合を免疫共沈降実験により調べた所、ATL細胞株に導入したNDRG2はSGK1と結合した。さらにNDRG2とSGK1は細胞質で一部共局在したことから、SGK1は直接NDRG2のリン酸化を制御することが示唆された。ATL細胞は、低酸素刺激により低酸素誘導性因子 (HIF-1α)を発現誘導するが、NDRG2の転写誘導は起こらず、AKT及びSGK1の活性も高い。一方、正常由来293T細胞では、低酸素によりHIF-1αが誘導され、NDRG2の発現上昇及びAKT、SGK1のリン酸化が減少する。SGK1はストレス応答で活性化されることが知られており、ATL細胞の細胞ストレスへの適応・抵抗性にNDRG2発現低下並びにSGK1活性化が関与している可能性が推測される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低酸素ストレスは癌の発達や進展に関わる。HIF-1αは低酸素シグナルのイニシエーターとして働き、低酸素環境に応答し様々な遺伝子の転写を活性化する。NDRG2のプロモーターには、HIF-1αの結合配列が存在し、低酸素に応答しNDRG2発現は活性化される。今回の研究から、SGK1はNDRG2の機能に重要な役割を持つことが証明された。SGK1はSGKファミリーに属し、その他には、SGK2とSGK3が存在する。ATL細胞では、SGK1が安定に発現していることがわかり、さらに、SGK1の恒常的なリン酸化及びSGK1阻害剤による増殖抑制効果を示し、SGK1はATLの新規の分子標的となる可能性を見出した。SGK1もまたストレス応答関連分子として知られ、低酸素でそのリン酸化は減少する。以上より、NDRG2発現低下とSGK1のリン酸化亢進は、ATL細胞の低酸素抵抗性に関わることが示唆され、現在、白血病発症マウスモデルにおいてSGK1とNDRG2の機能を解析中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
造血幹細胞(HSC)ニッチは低酸素環境であり、HIF-1α及びAKTの活性もHSCの維持に重要であることが知られている。NDRG2発現はHSCで活性化されており、またNDRG2欠損マウスは、HSCの数及び分化能が低下する。NDRG2はHSCにおいてPTENリン酸化制御を介して、低酸素応答に重要な機能を持つ可能性がある為、マウスモデルを用いてHSCにおけるNDRG2依存的なPI3K経路の制御機構を解明する。また、ストレス付加によるNDRG2発現を介したHSCの維持機構、白血病幹細胞におけるNDRG2の機能を解析し、白血病発症におけるNDRG2不活化の生理的意義を究明する。
|
Causes of Carryover |
本年度はin vitro実験が主として行っており、次年度はマウスモデルを用いた実験を中心に進めていく予定である。そのため、本年度の未使用額を次年度のマウス購入費等に計上する予定である。
|