2017 Fiscal Year Research-status Report
上皮間葉移行状態に基づいたKRAS変異肺がんに対する治療開発
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16K07164
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Research Institution | Aichi Cancer Center Research Institute |
Principal Investigator |
衣斐 寛倫 愛知県がんセンター(研究所), 腫瘍病理学部, 部長 (00645145)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | KRAS / 上皮間葉移行 / 腫瘍不均一性 / SHP2 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに、KRAS変異肺がんが上皮間葉移行状態(EMT)により2種類に分類されること、上皮系・間葉系の腫瘍ではMEK阻害薬投与後のフィードバック機構がそれぞれ異なることを示した。上皮系腫瘍ではERBB3、間葉系腫瘍ではFGFR1がそれぞれフィードバック機構に関与していた。KRAS変異腫瘍の治療においてEMTの状態をバイオマーカーとして個別化治療を行う可能性(上皮系では汎EGFR阻害薬とMEK阻害薬の併用療法、間葉系ではFGFR阻害薬とMEK阻害薬の併用療法)を示したが、TCGAのヒト肺がんデータセットの解析では、同一腫瘍内で上皮系と間葉系の細胞が混在していることが示唆され、腫瘍内不均一性(intra tumor heterogeneity)を考慮した治療開発が必要であると考えられた。 このため、上皮系と間葉系の細胞株の双方に有効な治療法の開発を試みた。MEK阻害後にはフィードバックにより受容体が活性化され、受容体が下流のRAS-RAF-MEKを活性化する。このMAPKシグナルのうち、受容体がRASを活性化するまでに必要な分子群に注目した。SHP2は受容体もしくはアダプタータンパクに結合し、さらに下流のGRB2,GAB1に結合することで受容体の活性をRASに伝達していく。SHP2の発現抑制はMEK阻害後のフィードバックを抑制し、この効果は上皮系・間葉系いずれのKRAS変異細胞株でも認められた。またKRAS変異腫瘍においてはMEK阻害薬の効果を増強する因子のスクリーニングが報告されているが、CRISPR法を用いたスクリーニングの既報データを再解析したところ、SHP2遺伝子のCRISPR法によるknockdownはMEK阻害薬との強い効果増強を示していた。これらのことから次年度ではSHP2阻害薬とMEK阻害薬の併用効果について検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上皮間葉移行に着目した新規の治療開発については、初年度に一定の成果を示すことが可能であった。理論的には、汎EGFR阻害薬+FGFR阻害薬+MEK阻害薬の3剤併用療法を行えばEMTの状態に関わらずKRAS変異腫瘍の治療が可能になる。しかしながら、分子標的薬の併用は毒性を増強させることが知られており、3剤併用療法は現実的ではないと考えられる。もう一つの方法としては、上皮系もしくは間葉系のどちらかに対する治療を先に行い、一定のサイクル治療後にもう一方の腫瘍型に対する治療を行う交替療法が考えられる。ただし、交替療法については、臨床試験を行う際の試験デザインが複雑になることが問題である。また、この場合、汎EGFR阻害薬+MEK阻害薬については現在臨床試験が他国で行われているが、FGFR阻害薬+MEK阻害薬については現在臨床試験が行われていないことから、まず、FGFR阻害薬+MEK阻害薬の安全性を示すことが必要となる。このため、本研究課題は2年目の研究内容として、EMTの状態に関わらず効果を示す方法の開発を新たに行うこととした。その結果、SHP2を有望な標的として同定することができた。現在SHP2阻害薬の開発が進んでいることから、SHP2阻害薬+MEK阻害薬の有効性を検討することは意義があると考えられる。このように、計画当初に設定した課題に対する結果が得られていること、その結果が内包する問題点に対し新たな治療法の開発に着手していることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
SHP2の阻害がMEK阻害薬の効果を増強することは、発現抑制法とCRISPRスクリーニングのデータにより示されたが、発現阻害と薬物による活性の阻害は得られる結果が異なる可能性がある。SHP2は不活型から活性型に構造が変化することで、下流のGRB2やGAB1の結合が可能となり下流にシグナルを伝達することが知られているが、この構造変化を阻害する薬剤としてSHP099が報告されている。次年度は、SHP099とMEK阻害薬の併用効果について、上皮系、間葉系それぞれの細胞株を用い検討を行う。両者で併用効果が確認された場合には、細胞株ゼノグラフトモデルによる解析を行う。また、本併用療法は、上皮系・間葉系いずれの性質を持つKRAS変異肺がん細胞に対しても効果が期待できることをコンセプトとしているため、腫瘍内不均一性を維持している患者検体由来ゼノグラフトモデルによる評価が有用であると考えられる。細胞株ゼノグラフトモデルが有望な結果を示した場合には、上皮系と間葉系の両者の成分を有する患者検体由来ゼノグラフトモデルを購入し、SHP2阻害薬とMEK阻害薬の併用療法の効果を検討するとともに、治療終了後の検体を用い、上皮系・間葉系成分におけるMAPKシグナルの抑制効果並びに治療効果の確認を行う。
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Research Products
(9 results)