2017 Fiscal Year Research-status Report
Wnt依存性癌幹細胞を標的とした大腸癌肝転移治療法の開発
Project/Area Number |
16K07174
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
呉 しん 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教員 (00764739)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | マイクロRNA / 大腸癌 / 肝転移 / KRAS |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、microRNAに着目して大腸癌肝転移のメカニズムを探索することを目的とした。平成28年度には大腸癌患者134例を対象としたmiRNA発現解析によって、転移を有さない原発巣と比較して肝転移巣で発現が低下するmiRNAを38種類同定した。その中からmiR-487bに注目し、大腸癌細胞株を使った実験でmiR-487bの抗腫瘍効果や細胞内シグナルの抑制効果を確認し、予後因子となることも明らかにしてきた。平成29年度はmiR-487bの標的遺伝子としてのKRASやLRP6との直接的な結合をルシフェラーゼアッセイで証明し、ERKのリン酸化などKRASの下流シグナルについても検討を進めた。 しかしながら、miR-487bによる抗腫瘍効果は思いのほか弱く、miR-487bそのものの実用化には困難を伴うことが予想されたため、当初の実験計画であった動物実験によるmiR-487bの抗腫瘍効果の検討は差し控えた。一方、我々がmiR-487bの標的遺伝子として同定したLRP6分子については、乳癌や肝臓がんで癌促進的に働くとの報告はあるものの、大腸癌での役割は知られておらず、この点に焦点を絞り研究を進めた。miR-487bが大腸癌の予後因子であったため、LRP6に関しても大腸癌患者80例のサンプルを用いて定量PCRにより算出した遺伝子の発現量と予後との関連を解析したが、LRP6の発現量は予後因子とはならなかった。また、免疫染色により、大腸癌組織80例でのLRP6の発現を検討した結果、LRP6の発現は全体的に低く、β-catenin発現量との比較を行うと負の相関が認められ、大腸癌においてはWnt/β-cateninシグナル経路の活性亢進に伴い、LRP6の発現量が抑制されている可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は大腸癌に対するmiR-487bの抗腫瘍効果や細胞内シグナルの抑制効果、miR-487bは大腸癌の予後因子となることなどの結果を得た。当初は動物実験によるmiR-487bの抗腫瘍効果を検討する計画であったが、細胞実験での抗腫瘍効果が予想していたよりも小さかったことから、miR-487bの標的遺伝子として同定したLRP6分子の解析を行った。まず、大腸癌の臨床サンプル80例を用いて、LRP6遺伝子発現を定量PCRによって検討した。その結果、LRP6の発現量と大腸癌患者予後の間には有意な関連性を認めなかった。次に大腸癌組織を用いて免疫染色を行い、LRP6の発現とその分布について検討を行った。その結果、非癌部の正常腸管上皮組織では、腺管の陰窩部において少数の細胞に明瞭なLRP6の発現がみられた。このことは正常大腸上皮では腺陰窩部の細胞でWnt活性が高く細胞分裂が盛んに行われていることに合致する所見である。一方で、癌部では正常腸管上皮組織での染色強度を超えるLRP6発現はみられなかった。次に、LRP6はWnt/β-cateninシグナル経路の膜受容体であるため、その下流であるβ-catenin発現量との比較を行った。その結果、LRP6とβ-catenin発現量との間には負の相関が認められた。大腸癌においてはWnt/β-cateninシグナル経路の下流を担っているタンパク質の遺伝子変異が認められる症例が多いことがわかっており(APC:80%, CTNNB1:48%)、LRP6の発現意義に関して今後検討を重ねる必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究成果から、Wnt/β-cateninシグナル経路の下流を担っているタンパク質の遺伝子変異が認められる症例が多いことがわかっている(APC:80%, CTNNB1:48%)大腸癌において、Wntシグナルの入り口の膜受容体であるLRP6の発現にどのような意義があるのかについて更なる検討を行う必要が出てきた。そこで、今後はAPCやCTNNB1の遺伝子変異が報告されておらず、β-cateninの過剰発現もほとんど認められていない食道癌を用いて、細胞実験や免疫染色を行い、大腸癌で得られた結果との対比を行うことで両癌種におけるLRP6の発現意義について明らかにしていく。免疫染色のpreliminaryな検討では、食道癌組織ではLRP6発現が大腸癌よりも豊富であるとの結果を得ている。細胞実験では, Wntシグナル下流のTCF4/β-catenin 複合体が発する転写活性の高い細胞株と、低い細胞株で、LRP6受容体の発現量や、リガンド添加量を変化させて、細胞内Wntシグナルの活性化状態に応じたLRP6の役割について探索を進める予定である。
|