2016 Fiscal Year Research-status Report
外来植物ドクムギ属の侵入経路の推定および分布拡大メカニズムの解明
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16K07230
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
下野 嘉子 京都大学, 農学研究科, 助教 (40469755)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 外来植物 / 侵入経路 / 遺伝的分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネ科ドクムギ属の外来植物は、農耕地において作物の減収をもたらす問題雑草となっている他、河原や草原、海岸など自然度の高い生態系にも侵入し、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種」に指定されている。ドクムギ属が様々な生育地において分布を拡大している要因として、複数の侵入ルートを介した多様な系統の侵入が貢献しているのではないかと考えられる。本研究では、侵入源と分布拡大後の個体群の遺伝構造および生態学的特性を比較し、各生育地への侵入経路を明らかにする。 平成28年度は、日本に侵入している複数系統(牧草や緑化植物として使用されている栽培品種および輸入穀物混入種子)と、国内の様々な生育地に定着している個体群を対象に、マイクロサテライトマーカーを使用した集団遺伝学的解析を行った。 栽培品種は種苗会社が販売しているものを購入し、混入種子は研究代表者が保有する2006年および2007 年に日本に輸入されたコムギに混入していた種子を使用した。国内の定着個体群は、関東、関西、九州各地域において、ドクムギ属が優占する穀物輸入港周辺の路傍、農耕地、海岸を選定し、各生育地ごとに30個体以上から種子を採集した。種子を発芽させ、葉からDNA を抽出し、マイクロサテライトマーカーによるフラグメント解析を行った。 その結果、全ての地域で共通して、穀物輸入港と海岸に生育しているドクムギ属は輸入穀物混入種子と、農耕地に生育しているドクムギ属は栽培品種と遺伝的に類似していることが明らかとなった。 そのため、砂浜に分布拡大しているドクムギ属はおもに穀物輸入港に非意図的に導入された個体に由来し、農耕地には牧草や緑化植物として導入された個体に由来することが示唆された。また、明瞭な遺伝構造が存在することから、両者ともに他殖性で交雑可能であるにも関わらず、両者間の遺伝子流動は限られていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定どおり、日本に侵入している複数系統(牧草や緑化植物として使用されている栽培品種および輸入穀物混入種子)と、国内の様々な生育地に定着している個体群を対象に、集団遺伝学的解析を行うことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
1.交配実験による雑種稔性および雑種個体の適応度の測定 栽培品種系統、混入種子系統、および各生育地に定着している国内個体群を育成し、交配実験を行う。各組み合わせで得られた雑種を翌年度育成し、成長速度、植生高、バイオマス、生産種子数を測定し、親個体と比較する。これにより、雑種強勢による適応度の上昇が見られるかを検証する。 2.各生育地の生物的・物理的ストレスを与えた条件下での栽培実験 栽培品種系統、混入種子系統、および各生育地の定着個体群から採集した種子を播種し、以下の処理条件で育成し、成長速度、植生高、生産種子数を測定する。(a)乾燥処理(路傍に見られる薄い土壌による乾きやすい条件を模擬):水やり頻度を変えることで、乾燥条件を作る。(b)塩水処理(海岸に見られる海水ストレスを模擬):海水に近い塩分濃度の塩水を植物体に散布する。 以上の栽培実験により、競争能力、耐乾性、耐塩性といった生態学的特性を比較する。各生育地ごとに適応的進化が起こっていれば、例えば海岸から採集してきた個体群が塩水処理条件下で最も高いパフォーマンスを示すといった生育地に応じた反応を示すと予想される。
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