2016 Fiscal Year Research-status Report
冬咲きランの花生態学: 保全管理に有益な情報収集をめざして
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16K07236
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
杉浦 直人 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (50304986)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 花生態 / 保全 / ラン / 冬咲き / 花粉媒介昆虫 / 花形態 / 稔実率 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘツカラン(以下ヘツカ)の開花は10月から始まり、翌年2月まで咲いていた。また、コゴメキノエラン(以下コゴメ)は1月下旬にどの花序も満開、2月中旬には大多数の個花が花被片を閉じていたことから、やはり冬咲きと確認できた。調査地の大隅半島、奄美大島とも冬季であっても昆虫が活動可能な晴天無風の日がみられた。 ヘツカ、コゴメとも総状花序を垂下させ、それが葉によって被陰されないようにしていた(コゴメでは花序あたりの花数が4~98個と大きくばらついていたが、興味深いことに10個以下と少ない花序では各花を疎らに配置し、ある程度の花茎長を確保していた)。ヘツカの花は花幅が最大5㎝に達するうえに白地に濃赤色の斑紋をもち、花香も感じられた(分析により38の芳香成分を検出)。一方、コゴメの花は幅5㎜と小さいうえに一様に黄緑色で地味だった。また花香も感じられなかった。ヘツカについては人工受粉実験から、花粉媒介者の手助けなしには稔実しないことが判明した。コゴメも後述する自然稔実のデータからみて虫媒花とみなせた。実際、両種とも昆虫が花粉媒介にふさわしい姿勢・行動をとりやすいような形状に唇弁と蕊柱が配置されていた。一方、両種とも花蜜の分泌は認められなかった。 ヘツカの花粉媒介者はニホンミツバチであることが判明した。ハチは「唇弁室」から後退する際、中胸小楯板に花粉塊を付着させた。一方コゴメでは14.3時間にわたって訪花昆虫を調査したが、訪花したのはノミバエ科の1種ただ1匹だけだった。ただし、このハエの体サイズと行動が花の形状とよくマッチしていたことから、それが花粉媒介種かもしれなかった。 ヘツカの稔実率は7.4%(N=126花序1442花)、コゴメの稔実率は15.3%(N=22花序613花)だった。コゴメでは全く稔実しなかった花序が12本と全体の54.5%を占めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査初年度としては、おおむね順調に調査を行なうことができたと考えている。その最大要因は単純に野外調査の期間中に天気に恵まれたためである(特に1月と2月の奄美大島の雲霧林でのコゴメキノエランの調査)。次年度以降は、今年度の経験を活かし、さらなるデータ収集をめざしたい。。
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Strategy for Future Research Activity |
開花フェノロジーについては年ごとの変動性を知る必要があることから両種とも調査を継続する。コゴメキノエラン(以下コゴメ)では調査可能な株を増やすための探索を行なう。花の形態機能については、ヘツカラン(以下ヘツカ)では分光測色計を用いた花色解析をおこない、花香成分の分析と構成成分の同定作業を継続する。また、気温の低下(季節進行)にともない個花の寿命が変わる可能性、さらには受粉能力の低下が生じる可能性等についても実験計画をたて解明をめざす。また花外蜜の分泌が認められたので、その分泌量と糖濃度を計測する。コゴメについては、花蜜の分泌がないことを、糖試験紙を用い再確認するとともに、個花の寿命を調査する。 訪花昆虫ならびにその行動については年による変動性を考慮し、両種とも調査を継続する必要がある。ヘツカでは、(高所に着生しているため間近で見ることはできないが)ニホンミツバチの訪花行動のより詳細な観察データの収集をめざす(どのように学習能力の優れたミツバチをだまし訪花させているのか、考察できるように)。また念のため、それ以外の花粉媒介者がいないか注意する。ニホンミツバチの訪花した花の葯と柱頭の状況を記録することで、本種の花粉媒介の効率を解明する。コゴメについては、調査時期を開花の初期にあわせ、花を訪れる昆虫の種構成、各種の訪花頻度および訪花行動を調査し、花粉媒介種の特定をめざす。また、どうして花序ごとに稔実率が著しく異なるのか、その理由を明らかにすることもめざす。 自然稔実率については年ごとの変動性を知る必要があることから両種とも調査を継続する。また冬だけでなく秋から開花するヘツカを使い、秋と冬とで稔実率に違いがあるのか、人工受粉実験を行ない究明する。
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