2017 Fiscal Year Research-status Report
冬咲きランの花生態学: 保全管理に有益な情報収集をめざして
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16K07236
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
杉浦 直人 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (50304986)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 受粉 / ラン科 / 冬咲き / 保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘツカランでは、各株が複数ある花序の開花開始の時期をずらすことに加え、個々の花が約1カ月間咲き続け、このことが長期にわたる開花を可能としていることが判明した。人工受粉処理等の実験結果から、花は自家和合性だが、自動自家受粉の能力を欠き、種子生産には送粉者の介助が必要なことが確認された。各株は花茎と花序内の花を巧みに配置することで視覚的な誘引効果を高め、送粉者を誘引していた。花蜜はなかったが、数種の昆虫の訪花が記録された。最も多く訪れ、ポリナリウムの取り去りと受粉を行なったのはニホンミツバチだった。本種の巣外活動は気温が10度に達すると開始され、1月でも暖かな日にはその訪花が認められた。ミツバチが花に接近した69回のうち、19回(27.5%)でポリナリウムの取り去りが起きた。また、すでに花粉塊を付着させていたハチが訪花した13回のうち、3回(23.1%)で受粉が行なわれた。2017年の調査集団の稔実率は3.9%(n = 155花序1867花)と低く、昨年の半分程度の値に示した。「なぜ敢えて寒い季節に花を咲かせるのか?」その理由をこれまでに得られた研究知見をもとに推測すると、利用可能な花資源が不足する冬季に花を咲かせることで、高い学習能力をもち、高度な情報伝達システムを駆使して組織的な採餌をおこなうニホンミツバチによる訪花・受粉の機会を増やすためという可能性が考えられた。 コゴメキノエランについては、例年に比べ冬季が非常に寒かったせいで開花期が1カ月以上遅れ(調査中アラレが何回も降った)、また虫の活動が低調であったことから、訪花昆虫を全く記録することができなかった。ただ、厳冬年における開花フェノロジーを記録することで、年変動性の大きさを明らかにできたことは収穫だった。調査集団の稔実率は6.9%(n = 16株25花序568花)で、昨年よりも低くなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コゴメキノエランについては、当初から予想されていたこととはいえ、天候に恵まれず訪花昆虫に関するデータがとれなかった。一方、ヘツカランについては、花の形態機能、訪花昆虫相と花粉媒介者の行動、稔実率に関してその概要が明らかとなり、その巧妙な受粉戦略の一端をとりあえず把握できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘツカランについてはその受粉戦略の概要を明らかにできたことから、データを整理して速やかに論文原稿を作成して投稿する。ただし、花香成分の分析と構成成分の同定作業は継続しさらに調査する。 コゴメキノエランについては開花フェノロジーに関する調査を継続する。また、調査可能な株を増やすための探索を行なう。花の形態機能については個花の寿命を調査する。訪花昆虫ならびにその行動については知見が不足しているため、特に重点的に調査をおこなう予定で、調査時期を開花の初期にあわせ、花を訪れる昆虫の種構成、各種の訪花頻度および訪花行動を調査し、花粉媒介種の特定をめざす。自然稔実率については年ごとの変動性を知る必要があることから調査を継続する(どうして花序ごとに稔実率が著しく異なるのか、その理由を明らかにすることもめざす)。さらにコゴメキノエランは非常に個体数が少なく絶滅の危機が増大していることから、得られた繁殖生態的な知見をもとに保全管理ついての提言を行なう。
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