2018 Fiscal Year Research-status Report
脂質非対称センシング機構の解明および応用研究の基盤形成
Project/Area Number |
16K07288
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小原 圭介 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (30419858)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 細胞膜 / 脂質非対称 / センサー / 出芽酵母 / 真菌感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞膜の脂質二重層では、内外層で脂質組成や役割が異なっている。本研究では、その様な脂質非対称の状態を脂質非対称センサータンパク質Rim21が感知する仕組みを解明し、応用研究に向けた基礎知見を得ることを目指している。 平成30年度は、Rim21の翻訳後修飾の解析で進展があった。申請者は、Rim21がN結合型糖鎖修飾を受けることを以前に報告している。しかし、その修飾部位は不明であった。今回、典型的なN結合型糖鎖修飾モチーフに変異を導入したが糖鎖修飾への影響は見られなかった。そこで、非典型的なモチーフを含めて変異解析の規模を拡大したところ、Rim21が非典型的な糖鎖修飾モチーフでN結合型糖鎖修飾を受けることを見出した。この部位での糖鎖修飾は脂質非対称センサー複合体の形成や下流のシグナル伝達因子集合体の形成には必要ではなかった。しかし、この糖鎖修飾部位に変異を導入するとRim21の半減期が延長した。また、このRim21変異タンパク質は生化学的な細胞分画や界面活性剤による可溶化アッセイにおいて、野生型のRim21とは異なる挙動を示した。このことは、N結合型糖鎖修飾を受けていないRim21は、細胞膜において野生型とは異なる脂質微小環境に局在することを示唆している。近年、糖鎖部分での相互作用を介して、膜タンパク質が脂質の微小環境に出入りするモデルが提唱されており、興味深い。 Rim21のユビキチン化を介したシグナル伝達に関しても進展があった。Rim21に端を発するRim101経路にはユビキチン化反応が必要である。平成30年度では、脱ユビキチン化酵素Doa4がRim101経路の不要なあるいは過剰な活性化を抑制していることを見出した。このことは、ユビキチン化と脱ユビキチン化の拮抗作用によって、脂質非対称シグナルのON/OFFの調節がなされていることを示している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脂質非対称の感知およびシグナル伝達機構を解明するには、脂質非対称センサーRim21の分子解剖が欠かせない。その意味で、Rim21のN結合型糖鎖修飾部位を同定し、N結合型糖鎖修飾がRim21の脂質微小環境への局在を調節していることを明らかにした意義は大きい。近年、膜タンパク質が糖鎖同士の相互作用を介して、脂質の微小環境に出入りするモデルが提唱されており、Rim21はそのモデルの検証における良い例に成り得るため、その意味でもこの成果は意義深い。 脱ユビキチン化酵素Doa4が、Rsp5によるユビキチン化反応と拮抗する形でRim101経路の不必要あるいは過剰な活性化を抑制していることを見出したことも成果の一つである。ユビキチン化と脱ユビキチン化の拮抗作用による生体反応の制御は、ユビキチンの分野で重要な話題の一つになっている。本研究の成果は、この様な拮抗作用の新たなパラダイムとなり得る。 この様に、脂質非対称センサータンパク質Rim21に対する翻訳後修飾(N結合型糖鎖修飾、ユビキチン化ー脱ユビキチン化)に関して、新たな知見が得られた点は平成30年度の大きな成果である。その一方で、脂質非対称センサーモチーフと脂質の相互作用に関する研究、質量分析によるRim21のユビキチン化部位の同定、病原性真菌類のRim21の解析に関しては、予定していた進展は見られなかった。特に、Rim21のユビキチン化部位の同定は、Rim21の発現量が極端に低いため、質量分析の検出感度を下回ってしまった。そこで、in vitroでRim21組換えタンパク質をユビキチン化する系を設計し、おおむね完成した。 総合すると、予定通りに進まなかった部分もあるが、新たな知見が得られた面もあり、おおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
Rim21のN結合型糖鎖修飾に関して、平成30年度に明らかにした内容を中心にした論文の作成、投稿を行う。そのためのデータ取得や投稿後にレフェリーから求められたリバイス実験などを行う予定である。 Rim21のユビキチン化部位の同定に関しては、確立しつつあるin vitroユビキチン化反応の実験系を用いて、Rim21組換えタンパク質のユビキチン化を試験管内で大量に行い、質量分析によってユビキチン化部位を特定する予定である。ユビキチン化部位が決定できたら、その部位に変異を導入することで、ユビキチン化が果たす役割を明らかにする。これらの結果に、平成30年度に明らかにした脱ユビキチン化酵素Doa4によるRim101経路の抑制効果に関する内容も併せた内容で論文化を目指す。そのためのデータ取得や投稿後にレフェリーから求められたリバイス実験を行う。 Rim21による脂質非対称の感知機構に関しては、脂質非対称センサーモチーフと脂質人工膜との相互作用に関するin vitro実験を推進する。並行して、in vivoで細胞膜とRim21のセンサーモチーフとの相互作用をライブイメージングで明らかにする。この部分は、平成30年度に予定通りに進行しなかった部分であり、平成31年度では重点的に行う。 病原性真菌類のRim21に関する研究も行う。出芽酵母のRim21で脂質非対称の感知に重要であることが判明したアミノ酸残基に関して、病原性真菌であるCandida glabrataのRim21の該当するアミノ酸残基に変異を導入し、脂質との結合実験などを行う。このことにより、脂質非対称感知機構の真菌類一般での保存性を検証し、真菌感染症に対する創薬に寄与する知見を得る予定である。
|
Causes of Carryover |
(理由)試薬の効率的な使用などで想定していたよりも物品費が少額で済んだため次年度使用額が生じた。また参加を予定していた研究会が台風で中止になるなどで使用額が減少した。
(計画)今年度に予定通りに進まなかった部分(in vitro実験系、ユビキチン化部位の同定など)に重点的に使用する予定である。この部分は、高額な試薬類が必要であるため、消耗品に大部分を充てる。また、得られた成果を論文や学会で発表する際の校閲費や旅費などに使用する予定である。通信費、複写費、印刷費などにも充てる予定である。
|
Research Products
(3 results)