2017 Fiscal Year Research-status Report
熱ショック転写因子によるシャペロン非依存的恒常性維持機構の解明
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16K07292
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
桜井 博 金沢大学, 保健学系, 教授 (00225848)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 熱ショック応答 / GADD45 / MAPキナーゼ / HSF1 / 細胞増殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱ショック転写因子HSF1 (heat shock factor 1) は、タンパク変性ストレス応答において、シャペロンの発現を誘導する転写調節因子として知られているが、恒常性の維持においても、シャペロン以外のさまざまな遺伝子群の発現を調節し、細胞増殖・老化・がん化などを制御する。平成29年度は、非シャペロン型HSF1標的遺伝子であるGrowth arrest and DNA damage-inducible 45 (GADD45) ファミリーに注目し、その熱ショック応答における機能について解析した。 GADD45ファミリーのα, β, γは、細胞増殖や細胞死の制御に関与する。これらのうち、GADD45βとGADD45γ遺伝子の発現は熱ショックにより亢進した。さらに、GADD45βプロモーター内にHSF1結合配列を同定しHSF1標的遺伝子であることを示した。また、GADD45ファミリー遺伝子は、酸化ストレスや変異原ストレスに対して異なる発現をすることを明らかにした。GADD45βノックダウン細胞を用いて、GADD45βが熱ショック細胞の生存に必要であることを示した。熱ショック細胞では、Mitogen-activated protein kinase kinase 7 (MKK7) が細胞死に関与するストレス応答性c-Jun N-terminal kinase (JNK) を活性化するが、GADD45βはMKK7に結合しJNKの活性化を阻害することを明らかにした。したがって、HSF1はGADD45βを介して熱ショック細胞の細胞死を制御していることが示唆された。また、GADD45αとGADD45γもMKK7阻害活性を持つことも示した。これらの研究結果は、Archives of Biochemistry and Biophysics誌に原著論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、非シャペロン型HSF1標的遺伝子である基本転写因子TAF7、初期応答遺伝子IER5 (immediate-early response)、クロマチン制御因子EXPAND1、その他の遺伝子(GADD45βなど)の発現調節に注目し、これらにより細胞のストレス応答・増殖およびゲノム全体の転写・クロマチン構造がどのように制御されているかについて明らかにする。 平成28年度は、熱ショック細胞におけるTAF7の機能について解析を行い、熱ショックにより誘導されるTAF7は、1)熱ショック細胞の増殖に必要である、2)熱ショック細胞でのシャペロン遺伝子の持続的発現に必要である、3)2)においてRNAポリメラーゼIIが転写開始から伸長反応へ移行する過程を制御していることを示した(論文投稿中)。平成29年度は、HSF1の新たな標的遺伝子としてGADD45βを同定し、GADD45βは、細胞死を促進するMKK7-JNK Mitogen-activated protein kinase経路を阻害することにより、熱ショック細胞の生存に関与することを示した。また、IER5は、PP2A に結合しPP2A標的タンパクの脱リン酸化を調節するが、この標的タンパクとして新たにCDC25AとCDC25Bを同定した。両タンパクの機能は14-3-3タンパクにより阻害されるが、PP2A-IER5は14-3-3タンパクとの結合に必要なCDC25A/25Bのリン酸化セリン残基を脱リン酸化することを見出した。CDC25A/25Bは細胞周期の制御において重要な役割を担うが、これがHSF1→IER5-PP2A→CDC25A/25Bという経路により調節されているのは、ストレス応答と細胞増殖の制御の関連を考える上で興味深い。 このように、本研究テーマは、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
IER5はHSF1の標的遺伝子であるが、そのN末端は、IER2やIER5Lと高い相同性がある。IERファミリーは、このN末端相同領域を介してPP2Aに結合しPP2A標的タンパクの脱リン酸化を制御する。標的タンパクとしては、HSF1, ribosomal protein S6 kinase, CDC25A, CDC25Bを同定している。今後は、細胞周期に関与するCDC25A/25BとHSF1の新たな標的遺伝子候補であるクロマチン制御因子EXPAND1について研究を行う。 CDC25A/25Bについては、1)脱リン酸化されるリン酸化アミノ酸残基の決定、2)脱リン酸化とCDC25A/25Bの機能制御(活性、安定性、細胞内局在性の変化)、3)脱リン酸化と細胞増殖制御との関係、4)熱ショック細胞における脱リン酸化型CDC25A/25Bの機能について明らかにする。具体的には、共免疫沈降やpull-down実験、フォスファターゼ活性の測定、抗リン酸化タンパク抗体を用いたWestern blot、免疫染色、細胞カウントやMTT法により検討する。さらに、IERファミリーの新たな標的タンパクについて、網羅的共免疫沈降による解析を行い(質量分析は本学の学際科学実験センターに依頼予定)、特に細胞増殖関連タンパクについて、同様の方法により機能解析を行う。 一方、EXPAND1については、HSF1ノックアウトマウスおよびノックアウト細胞を用いて解析を行う(入手済み)。EXPAND1プロモーターのレポーター遺伝子を作製し、HSF1が結合し熱ショック応答を担うDNA塩基配列を同定する。これをもとに、ゲルシフト法やクロマチン免疫沈降法により、HSF1の結合を確認する。 このような研究により、HSF1の多様な機能について解析することにより、恒常性維持機構におけるHSF1の重要性について考察する。
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Causes of Carryover |
購入予定の試薬が高額であったため、購入を次年度に延期した。そのため、少額の次年度使用額が生じ、したがって、この分は次年度の試薬購入に充てる。
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Research Products
(3 results)