2016 Fiscal Year Research-status Report
バクテリアトキシンによるリボソーム依存mRNA切断反応メカニズムの解明
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16K07310
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
竹本 千重 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 副チームリーダー (40306527)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バクテリアトキシン / リボヌクレアーゼ / リボソーム / 構造解析 / 触媒機構 / mRNA |
Outline of Annual Research Achievements |
バクテリアトキシンRelEは、リボソーム中でmRNAを切断するエンドリボヌクレアーゼであり、アミノ酸飢餓に応答してタンパク質合成を阻害する役割を果たしている。その反応機構は、切断後のRNA断片の末端が2',3'-cyclic体であることから、切断反応に金属が関与しない一般酸塩基触媒機構が提案されている。しかし、既知構造から予測される重要残基の変異による活性損失が顕著でない等、未解明な点が残されている。本研究では、申請者らが決定した野生型RelEとリボソーム・mRNA複合体構造に基づいて、有効な変異体を設計し、反応メカニズムの詳細を明らかにしたいと考えている。 平成28年度は、既知構造と詳細を比較し、これまで報告されている活性測定の結果や、議論されている反応メカニズムとの整合性を検証した。 申請者のグループは、高度好熱菌のRelEを用いているが、近年、Strobelのグループによる活性測定の結果から触媒残基として重要性が論じられているK52, K54, R61, R81, Y87のうち、K52以外は相当する残基がmRNAと4オングストローム以内の距離にあることが示された。また、既知構造との比較では、リボソーム内に位置する反応場でのmRNAやrRNAとの相互作用に違いがあることがわかった。しかしながら、構造が大きく異なるのは、切断部位のmRNA(Aサイトのコドン)であり、RelEの主鎖はほとんど重なっている。唯一、K52, K54が並んでいるベータストランドの位置がずれているため、推定されるメカニズムから予測される基質との距離や位置に相違があることがわかった。これらの相違について検証したところ、少なくとも我々の構造に理論的な不整合はないことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
28年度は母親が倒れて要介護状態になるという家庭の事情で、研究業務に専念できる時間に制約があったため、やや遅れている。しかしながら、構造比較など、計算機上で可能な計画は遂行しており、29年度内には当初計画のペースに戻せる見込みである。 まず、酵素活性系の構築にあたって、RelEの酵素活性の低さと大腸菌と高度好熱菌、古細菌の構造のアライメントと配列のアライメントがずれていることが懸案事項となった。既知構造では、K52の主鎖とN42の相互作用の可能性が推測されるが、この2つは共に保存残基ではなく、高度好熱菌の構造には、相当する相互作用は存在しない。これらの原因としてRelEは細胞毒性が強いためにアンチトキシンとの複合体で大量発現させてから、denature&refolding法で精製されていることが良くないと考えられる。そこで、現在、セルフリータンパク質合成系を利用して変性状態を経ずにRelEを精製することを試みている。酵素活性が低いと定量的な議論をするための結果を得るのが困難なので変性させない状態が好ましいと考えている。 高度好熱菌リボソーム等、その他に必要な分子の調製は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) FRETを利用したアッセイ系の構築を急ぐと共に、構造の詳細比較から触媒機構への関与が新たに見出されたグルタミン酸の変異体を作成し、活性を測定する。 (2) 切断部位のmRNAのデオキシ体をリボヌクレオチドに置換して、エネルギー最小化計算を行った結果得られた構造を更に詳細に解析する。 (3) 局所的pKaの計算など行い、類似構造と比較し、反応メカニズムを予測する。 (4) 反応場の切り出しと周囲の環境や境界領域の取り扱い方を検討する。 (5) 水分子の関与を重水を用いる実験と、計算の両方で解析する。
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Causes of Carryover |
研究の進行状況がやや遅れ気味だったため、年度内の発注期限までに、比較的高価なカラム等や計算機の選定に十分時間を割けなかったため、それらを年度明けに発注することにしたから。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1)立体構造比較を共同研究者と議論するために、描画機能を強化したノートPCを購入する。リボソームとの複合体の構造は通常のPCでは重ねたり動かすことは不可能だったが、最近は汎用グラフィックカードの性能が向上し、構造解析用の計算機に積んでいるグラフィックカードと遜色ないスペックになっている。2)アッセイ系構築のための試薬・カラム等を購入する。3)誌上発表と共に、学会発表も行う予定である。4)分子動力学計算を始めたら、卓上型のクラスタ計算機もしくはストレージを購入する予定である。
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