2016 Fiscal Year Research-status Report
DNA結合蛋白質の機能解析のためのマイクロ秒時分割単分子計測技術の創出
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16K07313
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鎌形 清人 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (90432492)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 1分子計測(SMD) / 蛋白質 / 遺伝子 / 分子認識 / 生体分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNA結合蛋白質は、膨大なDNAの中から標的配列を探し出し、結合する。DNA結合蛋白質の標的配列の探索には、実験的に検証しにくい“ホッピング”や“セグメント間移動”などの探索機構が存在する可能性がある。本研究では、従来の装置の分解能ミリ秒以内に起こる“ホッピング”などの探索機構を検証し、DNA結合蛋白質が標的配列を認識し結合する過程を明らかにする。 まず、サブミリ秒の時間分解能の単分子蛍光装置の開発に着手した。高出力レーザーの全反射照明と高感度でマイクロ秒の分解能のラインスキャン型検出器を組み合わせた全反射蛍光顕微鏡を作成した。開発の途中であるが、500マイクロ秒の時間分解能を達成し、従来法の約50倍の時間分解能の向上に成功した。 次に、単分子計測の課題であった、一度に大量のデータを取得するため、DNA整列固定法の開発を行った。MPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーによるガラス基板のコーティングとPDMS(ポリジメチルシロキサン)スタンプによるDNA接着分子のスタンプを組み合わせ、DNAの末端を一直線上に揃えて固定する方法“DNAガーデン”を確立した。開発した方法は、観測視野内のDNA数を増やし、一度に10,000分子のDNA結合蛋白質のデータを取得できるようになった。DNAガーデンを用いて細胞のがん抑制に関わるDNA結合蛋白質p53を計測したところ、p53がDNAのループを作る様子をリアルタイムで観察することに成功した。 さらに、p53の標的配列への結合過程を観測したところ、約10%の分子が結合に成功したが、残りの分子は結合に失敗し通り過ぎることが明らかとなった。これまで結合の成功率は100%と考えられてきたが、p53の場合は10分の1と低いことが分かった。さらに、標的への結合の成功率がp53の転写活性と相関があることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、サブミリ秒の時間分解能の単分子蛍光装置を開発した。高出力レーザーの全反射照明と高感度でマイクロ秒の分解能のラインスキャン型検出器を組み合わせた全反射蛍光顕微鏡を作成した。実際に、p53がDNA上で動く過程を計測し、500マイクロ秒の時間分解能を達成したことを確認した。従来法と比較すると、約50倍の時間分解能の向上に成功した。 次に、DNA整列固定法の開発を行った。MPCポリマーによるガラス基板のコーティングとPDMSスタンプによるDNA接着分子のスタンプを組み合わせ、DNAの末端を一直線上に揃えて固定する方法“DNAガーデン”を確立した。具体的には、DNAや蛋白質の非特異的な吸着を防ぐため、ガラス基板をMPCポリマーでコーティングする。次に、新しく設計したPDMSスタンプを用いて、DNA接着分子をガラス基板に一列に並べ固定する。最後に、DNAの末端をアビジン・ビオチンの結合を介して固定化する。コーティング剤の種類や方法、及び、コーティングとスタンプの順番などを検討した結果、DNAガーデンの開発に成功した。DNAガーデンは、観測視野内のDNA数を増やし、一度に10,000分子のDNA結合蛋白質のデータの取得を可能にした。DNAガーデンを用いてp53を計測したところ、p53がDNAのループを作る様子をリアルタイムで観察することに成功した。この成果はBull. Chem. Soc. Jpn.誌に掲載された。 さらに、p53の標的配列への結合過程を観測したところ、約10%が結合に成功したが、残りの分子は結合に失敗し通り過ぎることが明らかとなった。さらに、標的への結合の成功率がp53の転写活性と相関があることが明らかとなった。この成果は、2016年度のJ. Mol. Biol.誌に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、マイクロ秒の分解能でのp53の計測を行い、“ホッピング”を検証する。具体的には、開発した単分子蛍光顕微鏡を用いて、蛍光色素修飾したp53が、DNAガーデン法によりガラス基板に固定されたDNA上を動く様子をサブミリ秒の時間分解能で撮影する。DNA上でのp53の時系列デーDNAガーデン法によりガラス基板に固定されたタには、DNAと接触した状態で移動する“スライディング”と短い距離のジャンプである“ホッピング”が含まれていると考えられる。従来の方法では“ホッピング”が時間平均により“スライディング”の中に埋もれ、検出することが難しい。そこで、マイクロ秒の分解能での計測により“ホッピング”を“スライディング”から分離して検出する。“ホッピング”の頻度や移動距離を定量化することで、“ホッピング”の検証を行う。 次に、障害物のあるDNAを行い、p53がDNA探索時に障害物を回避する仕組み、つまり、“ホッピング”や“セグメント間移動”の役割を明らかにする。具体的には、DNAガーデン法によりガラス基板に固定されたDNA上にDNA結合蛋白質FisやNhp6Aなどの障害物を配置し、p53がそれらの障害物を回避しながら動く過程を観測する。蛍光色素で修飾しない障害物蛋白質を用いるため、蛍光色素で修飾されたp53の動きだけを可視化し、障害物回避における“ホッピング”の役割を明らかにする。さらに、“セグメント間移動”を検証するため、ガラス基板上に2本のDNAを十字に固定する法を開発し、蛍光色素修飾p53がDNA間を移動するかを検証する。
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Causes of Carryover |
マイクロ秒の時間分解蛍光顕微鏡の作成に関して、既存の光学部品(レンズやフィルターやレーザー)を用いて、顕微鏡を組み立て試作品の性能の評価を行った。その結果、当初の計画で購入する光学部品を導入する前に、目的のマイクロ秒の時間分解を達成した。今後、顕微鏡の光学部品(レンズやフィルター)を購入し、顕微鏡を完成させる予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
マイクロ秒の時間分解蛍光顕微鏡を完成させるため、レンズやフィルターなどの光学部品を購入する。また、障害物となる蛋白質の作成、蛍光色素の修飾のための消耗品として使用する。
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Research Products
(17 results)