2017 Fiscal Year Research-status Report
栄養環境とプロテアソーム経路とを連係するシグナル伝達ネットワークの解明
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16K07359
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
武田 鋼二郎 甲南大学, 理工学部, 准教授 (90426578)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / 細胞周期 / タンパク質分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、分裂酵母をモデルとして、栄養環境の変化をプロテアソーム依存的タンパク質分解系に伝えるシグナル伝達ネットワークとその生理的意義を解明することである。分裂酵母のプロテアソームの細胞内局在は、Cut8タンパク質によって制御されている。高温感受性のcut8変異体では核内でのM期制御因子の分解が遅延し、M期進行が異常となる。cut8変異と遺伝学的に相互作用するシグナル伝達因子として、分裂酵母のGreatwallキナーゼ(Gwl)ホモログがあげられる。Gwlはアフリカツメガエル卵抽出液の実験系で、α-Endosulfine (Ensa)をリン酸化し、リン酸化型Ensaが2A型タンパク質脱リン酸化酵素(PP2A)を抑制することで細胞周期の制御に関わることが明らかとなっている。出芽酵母のGwlであるRim15キナーゼは栄養環境を伝えるシグナル伝達経路に関与すること報告されており、これまでの研究から分裂酵母のGwlも栄養に関わることを示唆する結果が得られているため、これらの分子経路を介して栄養環境とタンパク質分解系が連繋されている可能性が考えられる。 2017年度は、栄養環境とプロテアソーム系の連繋に関して引き続き研究を行なった。技術的な工夫により、分裂酵母EnsaホモログのGwlによるリン酸化状態を簡便に検出できるようになり、様々な条件で検討したところ、培地のグルコース濃度低下は、Gwlの活性化を引き起こし、結果としてEnsaのリン酸化が亢進することが明らかとなった。グルコース濃度低下はcut8変異株の高温感受性を抑制すること、その抑制はGwlやEnsaの遺伝子破壊によって阻害されること、も明らかとなっている。以上より、細胞を取り囲む環境中のグルコース濃度の低下が、Gwl/Ensa経路を通じてCut8あるいはプロテアソーム系に情報伝達されることを強く示唆する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞外の栄養状態、特にグルコース濃度の低下が、Gwlキナーゼの活性上昇とそれに引き続くEnsaの高度なリン酸化を引き起こすこと、Ensaの高度なリン酸化はPP2A-B55を通じて、プロテアソーム周辺に影響を及ぼすことが、2017年度までの研究によって明らかとなった。PP2A-B55が具体的に何に作用しているのか、特にPP2A-B55の基質に関しては,これまでのところ不明である。また、Aキナーゼの関与を生化学的に検討することを予定していたが、この点も実施できていない。一方、新規因子の同定をねらった遺伝学的なスクリーニングを実施し、いくつかの興味深い因子を取得できたこと、冒頭に述べたように栄養状態の変化Gwl-->Ensa-->PP2A-->プロテアソーム周辺という経路の存在を生化学・遺伝学的解析によって示せたこと、などから、全体としては当初の目的に向かって研究が進んでいるため、このような評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞外の栄養環境とプロテアソーム系の連繋という文脈において、PP2A-B55が何に作用しているのか、ということを明らかとするのが、大きな目標となる。拮抗的なキナーゼを同定することが研究を進展させる鍵となると考えている。2016年度に、この経路に関わる新たな因子を同定する目的で実施した遺伝学的スクリーニングによって、いくつかのリン酸シグナル伝達系の因子が取得されているため、これらの解析をおこなう。また、本研究課題の採択前に得ている結果と、採択後の結果をあわせて、論文発表をおこなうことも課題である。
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Causes of Carryover |
2017年度の研究は、おおむね順調に遂行したが、研究の進展上、プロテオーム解析をおこなわなかった。また、分子生物学会が勤務地の近くでの開催であり、その他の出張については別予算をあてることが可能であったため、旅費は使用しなかった。これらを消耗品の購入に充てたが、残額が生じた。2018年度は、最終年度であり、これまで以上に研究を進展させ、また、これまでの結果を論文としてまとめていくことが必要となる。これらの円滑な実施のために、分子生物学実験の各種のキットなどの消耗品の購入に、2017年度の未使用分を充てる予定である。
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