2017 Fiscal Year Research-status Report
棘皮動物進化の鍵となる成体原基Hox遺伝子発現を制御するシグナル伝達の解明
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16K07368
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山口 正晃 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (60182458)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 棘皮動物 / 半索動物 / 歩帯動物 / 進化 / 成体原基 / FGFシグナリング |
Outline of Annual Research Achievements |
半索動物(ギボシムシ)と棘皮動物(ウニやヒトデ)は姉妹群(歩帯動物)を構成し、三体腔性の幼生期を共有する。半索動物は幼生の体腔プランと外胚葉を成体へと引きつぐ。一方、棘皮動物は幼生の左側にできる中胚葉性の水腔および左後体腔とそれを被う羊膜外胚葉からなる成体原基の中で体腔の再配置とともに五放射体制をつくり、成体へと変態する。棘皮動物のこの特異なボディープランの進化は、未だに動物学の謎として残っている。本研究の目標は、羊膜外胚葉の進化的起源と成体原基形成の分子機構を解明することである。 ウニ成体外胚葉のほとんどを占める口側外胚葉は、幼生の左側外胚葉から陥入する羊膜外胚葉に由来する。半索動物の外胚葉の前後軸そったパターン化の分子機構と脊椎動物の中枢神経系の前後軸にそった領域化の分子機構は高度に保存されている。この保存された転写因子群とシグナル分子群をコードする遺伝子発現を前後軸にそった登記(AP registry/map)として利用することによって、棘皮動物の成体外胚葉の起源に新たな知見を加えた。 棘皮動物の成体原基形成は、羊膜外胚葉と水腔との接触によって開始する。しかし、成体原基における外胚葉―中胚葉間相互作用の分子実体はまったくわかっていない。羊膜外胚葉においてfgf8/17/18が、水腔中胚葉においてfgfaが、その両者においてfgfr1が発現することに注目して、FGF受容体の阻害剤であるSU5402処理した幼生の表現型と外胚葉と中胚葉マーカー遺伝子発現を解析した。ウニ成体原基形成におけて双方向の胚葉間FGFシグナリングが、水腔中胚葉を誘導するとともに、成体口側外胚葉において水腔中胚葉を覆う歩帯領域を特異化する分子モデルを提唱した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
羊膜外胚葉の進化的起源を解明するため、ギボシムシ外胚葉AP map遺伝子のウニオーソログを単離し、WMISH法によって発現解析した。ギボシムシの前方(吻)外胚葉AP map遺伝子のウニオーソログは、幼生の頂板外胚葉で発現したが、この領域は成体口側外胚葉に置換され、成体に引き継がれない。ギボシムシの中間(襟)外胚葉AP map遺伝子のウニオーソログは、成体口側外胚葉の歩帯領域で発現した。一方、ギボシムシの後方(胴)外胚葉AP map遺伝子のウニオーソログは、ほとんど成体外胚葉で発現していなかった。この結果は、(1) 棘皮動物あるいはウニは、歩帯動物共通祖先から歩帯外胚葉のみを引き継ぎ、それはギボシムシの襟外胚葉に相当すること、(2) ウニの間歩帯外胚葉は、登録抹消された祖先外胚葉に由来する、または棘皮動物あるいはウニの系譜で新規に導入された外胚葉に由来すること、を示唆する。特に、ギボシムシ襟外胚葉map遺伝子のウニオーソログが歩帯外胚葉で放射状に発現することは、棘皮動物の進化モデルの主要な1つである「rays as axes model(棘皮動物の歩帯は歩帯動物共通祖先の前後軸の重複に由来する)」を強く否定する。歩帯の口側-半口側軸にそったAP registryは一様で、ギボシムシ襟と一致するからである。この成果を発表するための草稿を現在英文校正中である。速やかに投稿したい。 成体原基形成の分子機構を解明するため、FGF受容体の阻害剤であるSU5402処理した幼生の表現型と外胚葉と中胚葉マーカー遺伝子発現を解析した。その結果は、(1) 羊膜外胚葉fgf8/17/18が水腔中胚葉を誘導するとともにfgfa発現を活性化すること、(2) 水腔中胚葉fgfaが羊膜外胚葉歩帯領域を特異化すること、を示唆した。この成果を発表するための草稿を現在執筆中である
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の成果から、棘皮動物のボディープランの進化を、歩帯動物共通祖先の幼生体腔プランからの変形と欠失として理解し、ギボシムシと比較する道が開けた。さらに成体原基形成において、双方向の胚葉間FGFシグナル伝達が水腔形成とそれを被う歩帯外胚葉の特異化調節していることを実証するため、CRISPR/Cas9システムを利用してfgf8/17/18とfgfaの機能阻害実験を進めている。FGF受容体阻害剤処理と同様の表現型を確認しつつあり、最終年度内に成果を発表したい。
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