2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K07380
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
柴田 幸政 関西学院大学, 理工学部, 助教 (80314053)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | C. elegans / 細胞運命 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞運命維持機構の研究は、個体内の細胞種の多様性を保つ分子基盤の理解に繋がる点で重要である。運命維持機構は幹細胞など未分化な細胞で多くの知見が得られているが、分化した細胞では分化異常と運命維持異常の区別が難しく研究が進んでいない。研究代表者は、C. elegansの特徴を生かしこれを区別する系を確立し、分化した細胞でも運命維持機構の研究が可能になった。本研究では新たに単離した運命維持異常変異体を用い、分化した細胞で働く運命維持機構を同定し、運命維持機構の普遍的な部分を知るために幹細胞で働く機構との共通点を、幹細胞と分化した細胞で働く運命維持機構の特徴を理解するためにその相違点を明らかにする。本研究で得た知見は、多細胞生物の全ての細胞で必要な運命維持機構の理解に貢献する。 本研究では細胞運命維持機構に必要な因子を同定するために、運命維持に異常を持つ変異体の解析を行った。単離した変異体の原因遺伝子を全て同定したところ、ヒストンシャペロンCAF1を制御するリン酸化酵素TLK-1をコードする遺伝子が含まれていた。さらにCAF1複合体を抑制した場合にもtlk-1変異体と同様の異常が見られる事からCAF1も細胞運命の維持に必要であると考えられる。興味深い事に哺乳類でCAF1を抑制するとiPS細胞とtransdifferentiationの誘導効率の大幅な改善が起こる事が知られている。この事はCAF1による細胞運命の維持が種を超えて保存されている基本的な機構である事を示している。そのため、CAF1を介して運命維持を行うための分子機構を知る事は、基礎・応用の両面で非常に重要な課題であるといえる。すでにTLK-1がヒストンH3バリアントの局在を制御する事を明らかにしている。今後はまず、CAF1を介して運命維持を行うための分子機構を明らかにする。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では分化した細胞で運命維持に必要な分子機構を明らかにするために以下の計画を予定している。 A.運命維持に関わる遺伝子群の同定のため、変異体の原因遺伝子をクローニングする B.同じpathwayで働く遺伝子の分類のため、二重変異体を解析する。C.幹細胞の運命維持機構での必要性を知るために、多能性と自己複製能との関係を検証する。D.各pathwayが転写制御を行う仕組みを解明する。A, Bの結果をふまえて、運命維持pathwayの機能的な標的を明らかにし、転写制御やクロマチン3D構造との関係を検証する。 このうち初年度に行う予定のA.運命維持に関わる遺伝子群の同定を実際におこなった。運命維持異常変異体bet-1と同様に生殖巣の先端にあるdistal tip cell (DTC)の過剰形成を起こす株をスクリーニングで単離していたが、その後の解析からこれらは6つの遺伝子座に対応する事を突き止めた。そこで、これら全ての原因遺伝子を同定した。その結果、bet-1の新規アリルが得られたほか、クロマチンリモデリング複合体の構成因子をコードするsnfc-5, 核膜孔の構成因子をコードするnpp-11,ヒストンシャペロンASFに対するリン酸化酵素をコードするtlk-1も得られた。また、運命維持ではなく分化に関与する因子である、DNA結合型転写因子をコードするunc-39や細胞周期と分化の制御に関わるcdk-2も得られた。 現在はtlk-1を主に解析しており、変異体の表現型を詳細に解析し、DTCが発生と共に増加する事、DTCのみならず神経細胞AVMやPDEの過剰形成も起こる事を明らかにした。この事からtlk-1は運命維持に普遍的に必要とされる遺伝子であるといえる。また、TLK-1はヒストンH3-H4に対するシャペロンCAF1の活性化に必要だと予想し、それを支持する結果を得ている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、本来の計画通りに以下の項目を行う。B.同じpathwayで働く遺伝子の分類のため、二重変異体を解析する。C.幹細胞の運命維持機構での必要性を知るために、多能性と自己複製能との関係を検証する。D.各pathwayが転写制御を行う仕組みを解明する。 Bではまずtlk-1とbet-1が同じpathwayで働く可能性を検討すると共に、tlk-1 pathwayで働く遺伝子を新たに単離するためにRNAiライブラリーを用いてサプレッサースクリーニングを行う。 Cでは比較的多能性を維持しているC. elegans初期胚でのTLK-1の機能を調べる。C. elegansではRNAiは母性因子も抑制する事から、初期胚での機能を調べるのに適している。そこで、tlk-1 RNAiをおこない初期胚の表現型を詳しく調べる。また、初期胚で転写因子を強制発現する事で、初期胚が多能性を保持する期間を知る事が出来るんので、これについても明らかにする。 Dでは哺乳類での知見を参考にして、転写制御を行う仕組みを解明する。哺乳類では、TLK1はヒストンシャペロンASFを介して、CAF1を制御する事で複製時にヒストンH3.1をゲノム上に配置し、ヌクレオソームの形成を促進している。またCAF1の機能不全は別のヒストンシャペロンHIRAによるH3.3を持ったヌクレオソームの形成を促す。そこで、C. elegansの細胞運命の維持に、TLK-1を介したヒストンH3バリアントの調節が関与している可能性を検討する。 また、サプレッサー遺伝子にコードされた蛋白質の活性や発現が、H3バリアントの調節とどの様に関わるかも明らかにしていく。
|
Causes of Carryover |
初年度は原因遺伝子の同定の効率化を図るために、正立顕微鏡の購入を予定していたが、後のTLK-1 pathwayの機能の解明のために次世代シークエンサーを用いた解析を行う事を見越して、購入を控え現状の機器で対応した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、TLK-1 pathwayの機能の解明のために次世代シークエンサーを用いた解析を行うために使用する予定である。
|