2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K07382
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
坪内 知美 基礎生物学研究所, 幹細胞生物学研究室, 准教授 (70754505)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 幹細胞 / DNA複製 |
Outline of Annual Research Achievements |
胚性幹細胞(ES細胞)を含む多能性細胞は、あらゆる点で他の細胞種と異なっている。特に、ES細胞ではS期の進行に伴いDNA損傷マーカー(γH2AX)が顕著に出現し、ごく低濃度の複製阻害剤でも簡単に細胞死が誘導されることが知られる。 これまでに得てきた知見をもとに、前年度は「ES細胞のDNA複製は滞り易く損傷が生じやすい」という仮説を立て、それを検証するためにDNA fiber assayを用いた複製進行速度の測定を行った。結果、ES 細胞のDNA複製フォーク速度は、線維芽細胞の1/2であることがわかった。また、突発的にDNAフォークが停止すると、検出されるDNA複製断片がある頻度で顕著に短くなることが予測されるが、この頻度は線維芽細胞とES細胞でほぼ同等であった。つまり、ES細胞で多く検出されるγH2AXは、DNA複製フォークの滞り(停止)に伴うDNA損傷では説明できず、むしろ複製フォーク速度との何らかの関係が示唆された。 ES細胞において、H2AXのリン酸化を引き起こす要因を特定するために、S期内の異なる時期にあるES細胞・線維芽細胞の複製フォーク速度を測定した。線維芽細胞の速度がS期の後期にかけて上昇するのに対し、ES細胞の複製速度はほぼ一定である。S期初期で特に複製速度が低下する理由として、ヌクレオチドの不足があげられる。線維芽細胞において、ヌクレオチドの前駆体であるヌクレオシドを供給すると、S期初期特異的に複製フォーク速度が上昇した。興味深いことに、ES細胞を同様に処理すると、S期内のステージに関わらずDNA複製フォーク速度が上昇した。以上より、ES細胞ではS期を通じてヌクレオチドが不足しており、そのせいでDNA複製フォークの速度が低下することがわかった。γH2AXが出現することにヌクレオチドの量が関係しているかどうかは現在調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定どおり分化細胞と多能性細胞のDNA複製速度を精査し、要因を特定できた。
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Strategy for Future Research Activity |
ES細胞におけるヌクレオチド量の不足によるDNA複製フォーク伸長速度の低下が明らかになったため、今後は当初の研究計画に加え、ヌクレオチド量の制御に焦点を当てた解析を行う。平成29年度は複製フォークとγH2AXの相関、転写活性や染色体構造との相関、DNA配列との相関に焦点を当てて解析を行う計画であったが、これまでの解析からは転写活性との相関は得られていない。また、γH2AXはS期のごく初期から多数出現することから、ゲノム上の局所的な事象をマークしているというよりはヌクレオチド不足を伝達し、フォーク速度を制御している可能性も検討している。従って、今後はヌクレオチド量、DNA複製フォーク速度、γH2AX局在パターンの関係を精査していく。ES細胞で実際にヌクレオチドを定量し、他の細胞種と比較した報告はない。次年度以降はヌクレオチドの定量を新たに研究計画に加える。 本研究から、多能性細胞が外的ストレスによって容易に細胞死や分化誘導を受ける分子メカニズムを理解を深める。多能性細胞は、再生医療への応用が進められつつあるため、これらを理解することは効率よく質の高い多能性細胞を維持する技術開発に貢献すると考えられる。
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Causes of Carryover |
DNA fiber assayが順調に運んだことと、DNA複製の遅延がヌクレオチドの不足によることが示されたため、DNA切断の検出系に関する試薬の購入を控えたこと、また今年度は必要試薬の一部に関して分与を受けたことがあり余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降はヌクレオチド量の定量を新たに研究計画に加える。申請項目に加えてヌクレオチド定量のための分子生物学用試薬の追加、質量分析依頼に関わる費用が見込まれる。
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Research Products
(1 results)