2016 Fiscal Year Research-status Report
細胞壁ダイナミクスが誘起する物理的バイアスによる細胞形成の制御機構の解明
Project/Area Number |
16K07389
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
横山 隆亮 東北大学, 生命科学研究科, 講師 (90302083)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 植物細胞壁 / プロトプラスト / セルロース / マトリックス構造 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,植物細胞の形成が細胞外マトリックス構造(細胞壁)によって多面的に制御されていることを実証するとともに,細胞形成を制御するための細胞壁構造のダイナミクスとその分子制御メカニズムの全容解明を目指している。平成28年度は,細胞壁多糖の多面的なファクター(総量,束化度,分散,並行度,歪度など)を経時的かつ定量的に分析できるイメージング技術を発展させ,シロイヌナズナのプロトプラストの細胞壁の構築過程おけるセルロース・マトリックスのダイナミクスを詳細に分析することに成功した。また同様に画像解析技術を用いて,細胞壁構築に伴うプロトプラストの形状変化を分析し,プロトプラストの伸長方向とセルロース・マトリックスの状態を比較解析することで,プロトプラストの伸長方向がセルロース微繊維の配向と分散パターンと関連性を持つことを明らかにした。さらにセルロース以外の細胞壁多糖の細胞形成における役割を調べるため,高感度の間接蛍光抗体法を利用したイメージング技術を用いて,さまざまな細胞壁多糖のダイナミクスを分析した。 シロイヌナズナの細胞壁関連遺伝子のデータベースを利用して,プロトプラストの細胞壁の構築過程で機能すると予測される細胞壁多糖の合成酵素遺伝子を選抜し,これらの遺伝子が欠失したT-DNA突然変異体におけるプロトプラストの細胞壁構築過程の観察を進めた。また細胞壁のマトリックス構造を改変する新規酵素の単離・同定に成功し(Shinohara et al. 2017),本酵素を欠失,または過剰発現させた形質転換細胞を作製した。 プロトプラストの細胞壁構築過程の細胞壁多糖のダイナミクスを多面的なファクターで分析するイメージング技術と逆遺伝学的手法を融合させた研究方法については,国際学会で発表するとともにPROTEOMES誌にその内容を発表した(Yokoyama et al. 2016)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,画像の高解像化や新たな数理モデルの導入などによってイメージング技術を改良することに成功し,プロトプラスト表面の細胞壁多糖のマトリックス構造の解析が大きく進展した。イメージングの応用技術だけで,プロトプラスト再生の初期過程におけるセルロース微繊維のばらつきや歪度を詳細に定量分析できるようになったことは,細胞形成を制御する細胞壁の物理的バイアスが生まれる過程を解明する上で革新的な技術となった。またプロトプラスト再生の初期過程におけるセルロース・マトリックスのダイナミクスをイメージング技術で捉えることに成功した研究成果を平成28年度中に論文にまとめることができた(Kuki et al. 投稿中)。 高感度の間接蛍光抗体法を活用することで,セルロース以外のさまざまな細胞壁多糖のダイナミクスを同様のイメージング技術で解析することができるようになり,細胞壁の物性に関与すると予測される細胞壁多糖の同定につながった。 当研究室に蓄積していた遺伝子の発現データの新たなデータマイニングによって,プロトプラストの細胞壁構築過程における詳細な遺伝子発現プロファイルを再構築することができ,各細胞壁の構築過程で機能する細胞壁遺伝子の選抜が促進された。また細胞壁マトリックスを改変できる新規酵素の同定にも成功し(Shinohara et al. 2017),プロトプラストの細胞壁構築過程における本酵素の役割を解析するに至った。 シロイヌナズナのプロトプラストへ細胞壁関連遺伝子を一過的に導入し,細胞壁多糖を分解または修飾できる実験系を確立した。これによって,突然変異体を利用できない細胞壁構造の機能解析を迅速に進めることができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究成果で,細胞壁の物性に大きく寄与すると予測されたセルロースや他の細胞壁多糖を多重染色し,イメージング解析を行うことで,プロトプラストの細胞壁構築過程における各細胞壁多糖の間の相互作用や空間的な配置を解析することを推進する。また各細胞壁多糖については,エンド型加水分解酵素とMALDI-TOF MSを利用したオリゴ糖のマスプロファイングなどによる構造解析を行うとともに,ラマン分光法なども活用して,メチルエステル化などの多糖修飾を明らかにし,各細胞壁多糖の分子構造や修飾状態と多糖間の結合状態の関係を明らかにする。これらの実験結果をもとに,プロトプラスト表面で物理的バイアスを引き起す細胞壁構造の実体解明を目指す。 プロトプラストの細胞壁構築過程で機能する細胞壁遺伝子をT-DNA突然変異体のプロトプラストの細胞壁構造の変化を観察することによって同定する。特に細胞壁の物理的バイアスに寄与する細胞壁構造に関連すると思われる細胞壁遺伝子を集中的に選抜する。各細胞壁遺伝子については,遺伝子発現プロファイルのデータベースを活用して,共発現を示す制御遺伝子を探索した後,逆遺伝学的手法を用いて細胞壁遺伝子の発現への影響を調べることで,制御遺伝子であることを実証する。1つの細胞壁遺伝子に対して,複数の制御遺伝子が同定された場合は,同様に逆遺伝学的手法等を用いて,各制御遺伝子の階層や関連性などを解析し,その制御ネットワークの概要を明らかにする。このような細胞壁遺伝子と制御遺伝子の網羅的な解析によって,細胞形成時において物理的バイアスを引き起す細胞壁ダイナミクスの制御機構の全容解明を目指す。
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Research Products
(8 results)