2018 Fiscal Year Research-status Report
テンションウッド誘導系を用いたG層形成のマスター制御因子の探索
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16K07402
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
久保 稔 奈良先端科学技術大学院大学, 研究推進機構, 特任准教授 (30342778)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | テンションウッド / 細胞壁 / G層 / 網羅的遺伝子発現解析 / ポプラ / 次世代シーケンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
テンションウッド(引張あて材)は広葉樹が倒れた場合、その姿勢を立て直すために作る特殊な木部組織であり、G層と呼ばれるリ高純度セルロース繊維を産生するが、その仕組みは未だほとんど明らかになっていない。これまでに本研究課題ではポプラ挿し木苗のテンションウッド誘導系を確立し、その過程における継時的な網羅的遺伝子発現解析 (RNA-seq)を行った。その結果、テンションウッド形成時に発現上昇する転写因子50個を選定した。これらの遺伝子の機能を解析するためには、ポプラにおいてこれら遺伝子の形質転換体を作成する必要があるが、効率的に遺伝子機能を解析するために、培養細胞でのアッセイ系の確立を試みた。テンションウッドは木部繊維細胞においてのみ観察されることから、まず木部繊維細胞誘導系の構築を行った。木部繊維細胞分化の鍵遺伝PtVNS11を用いたpop58:PtVNS11-GR、CE3:PtVNS11-GRを発現するコンストラクトを作成し、ギンドロ培養細胞に形質転換を試みたが、形質転換体は得られなかった。次に交雑ポプラT89株において上記のコンストラクトとpop58:NGG-GR、CE3:NGG-GRを用いた形質転換ポプラを作成した。最終的にpop58:PtVNS11-GR形質転換体17個体、CE3:PtVNS11-GR形質転換体19個体、pop58:NGG-GR形質転換体42個体、CE3:NGG-GR形質転換体26個体を得た。これら形質転換ポプラにデキサメタゾン(DEX)処理を行うと、pop58:PtVNS11-GR形質転換ポプラ2個体の葉の一部において、繊維細胞の特徴である二次細胞壁が蓄積した表皮細胞や葉肉細胞が観察された。さらに導入したPtVNS11-GRの効果を調べるために、DEXまたはmock処理したポプラの葉において次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度においては以下の研究を中心に行った。 培養細胞における木部繊維細胞分化誘導系の構築に向けた形質転換ポプラの作成 テンションウッドの特徴であるG層は木部繊維細胞においてのみ観察されることから、木部繊維細胞誘導系を導入したポプラの作成を行った。まずギンドロ培養細胞にpop58:PtVNS11-GR、CE3:PtVNS11-GRを発現するコンストラクトを形質転換したが、形質転換体は得られなかった。原因としてギンドロ培養細胞では形質転換体を選別するハイグロマイシン耐性遺伝子が機能してない可能性が考えられる。次に、交雑ポプラT89株に木部繊維細胞誘導系のコンストラクトを形質転換した。結果として、pop58:PtVNS11-GR形質転換ポプラ17個体、CE3:PtVNS11-GR形質転換ポプラ19個体、pop58:NGG-GR形質転換ポプラ42個体、CE3:NGG-GR形質転換ポプラ26個体を得た。これら形質転換体における導入遺伝子の発現量をRT-PCRで確認したところ、pop58プロモーターを用いた形質転換体の方が、CE3プロモーターを用いた形質転換体よりも高い発現量を示していた。また、これら形質転換体の葉をDEXもしくはDMSOで3日間処理し、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った。その結果、DEX処理をしたpop58:PtVNS11-GR形質転換ポプラ2個体において、異所的な二次細胞壁の蓄積が観察された。しかし、再現性に乏しくこれらの形質転換体における二次壁蓄積の誘導には、葉の生長具合や繊維細胞誘導条件の検討が必要であると考えられる。またこれらにおいてDEX添加時における網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、PtVNS11の制御下にある遺伝子について、それらの一部でしかその発現上昇が見られなかった。この結果は、共焦点レーザー顕微鏡観察の結果と矛盾しない。
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Strategy for Future Research Activity |
作成した繊維細胞誘導系ポプラから培養細胞の樹立を進める。繊維細胞誘導系を導入した形質転換ポプラの植物体では、安定した二次細胞壁の蓄積は観察されなかったが、交雑ポプラT89株の形質転換ポプラにおいて培養細胞を確立すると安定した遺伝子発現誘導を示すという報告がある。これを進めるのと同時に、引き続き、テンションウッド形成関連遺伝子のcDNAの単離と、そのコンストラクトの作成を行い、培養細胞における木部繊維細胞分化誘導系の構築とG層形成のマスター制御因子の探索を遂行する。
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Causes of Carryover |
当初、ギンドロ培養細胞における木部繊維細胞分化誘導系の構築を試みたが、構築することができなかった。そこで、交雑ポプラT89株に木部繊維細胞分化誘導系を導入した形質転換ポプラを作成した。得られた形質転換ポプラにおいて、その形質の確認のための遺伝子発現解析が可能な植物体を育成するまでに時間がかかった。そのため、これらの成果を報告する学術論文の準備が予定より遅れることとなった。
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Research Products
(2 results)