2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K07423
|
Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
峯 一朗 高知大学, 教育研究部総合科学系黒潮圏科学部門, 准教授 (00274358)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 液中観察 / 巨大細胞性藻類 / 細胞壁マトリックス成分 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究成果として作成された試料観察容器を用いて,昨年度の研究成果であるバロニアの細胞壁の繊維状マトリックス成分の原子間力顕微鏡(AFM)による液中観察結果を次のように発展させた。 (1) 同成分の分布様式の解明と生化学的な特徴づけ これまでに,本藻の細胞壁内外表面における細胞壁の骨格要素とマトリックス要素の原子分解能形状像を大気中,および液中AFMにより観察した結果,これまで詳しい構造が知られていなかった本藻細胞壁の繊維状マトリックス成分が,平均0.8 nmの太さで,細胞壁のセルロース微繊維に巻き付くように存在することが明らかになった。昨年度はさらに,細胞壁の多層構造において隣り合う層の間の境界面に,同成分と同様の繊維状構造が,集塊をなして存在することが明らかになった。また,同成分の生化学的な特徴を明らかにするために,昨年度,本研究では数種のタンパク質分解酵素,糖鎖分解酵素による処理を施した細胞壁で同成分の形態を観察したが明確な影響は認められなかった。その一方,蛍光標識した19種類のレクチンで処理したところ,N-アセチルガラクトサミンを特異糖とするナヨクサフジ(Vicia villosa)レクチンが,細胞壁の内面や層間の境界面に特異的に結合することが明らかになり,同成分がN-アセチルガラクトサミンを含む多糖類であることが示唆された。 (2) 同成分の生理学的役割の解明 本藻の細胞壁では,酸性条件下において細胞壁の層が剥離しやすくなることが知られているが,同様の酸性条件処理により本成分の著しい変形が生じ,密度が有意に減少した。この結果は同成分が,多層構造をなす本藻の細胞壁において,層間を結合させることによりその構造維持に機能することを示唆する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【細胞壁マトリックス成分の形態と細胞壁内分布の解明】本研究のこれまでの成果に基づき,バロニアの細胞壁内外表面における細胞壁の骨格要素とマトリックス要素の液中AFM観察により,これまで詳しい構造が知られていなかった本藻細胞壁の繊維状マトリックス成分の構造が明らかになった。さらに,交差多層構造を形成する細胞壁の層間の境界面に豊富に存在する,という細胞壁分布の特徴が明らかになっている。 【生理的条件の調節による影響の解明】酸性条件によりバロニアの細胞壁の繊維状マトリックス成分が変形・減少することは,同様の条件により細胞壁の層が剥離しやすくなる事実から,同成分が,本藻の細胞壁の層間を結合させることによりその構造維持に機能することを強く示唆している。さらに蛍光レクチンを用いた組織化学的な方法により同成分の糖鎖の特徴が明らかになっている。このように予想以上の成果が得られているが,本研究の3種類の材料のうちバロニアに集中して研究が進められてきた感は否めない。他種の単離細胞壁における液中AFM観察,およびバロニアも含めて経時的な連続観察は今後の課題である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の研究に取り組む。 【バロニア以外の種における原子間力顕微鏡による細胞壁の液中観察】液中観察用の試料容器を用いてバロニアに続いてフシナシミドロおよびシャジクモにおいても細胞壁内外表面における細胞壁の骨格要素とマトリックス要素の原子分解能形状像を大気中,および液中AFM観察により取得する。また,バロニアも含めた3種類の材料を用いて,生細胞におけるのと同様の張力をかけた単離細胞壁における経時的な観察を試みる。 【生理的条件の調節】バロニア類やシャジクモ類の細胞壁は,酸性条件下およびCa2+キレート剤処理により伸びやすくなることが知られている。まずこのことを本研究においても確認した上で,このような細胞壁の伸びやすさや強度を変化させるような条件で,骨格要素とマトリックス要素の微細形態の経時的変化の液中AFM観察を行う。フシナシミドロの単離細胞壁は弱アルカリ性条件下で最も伸びやすくなり,酸性条件下では非常に伸びにくくなる。また,タンパク質分解酵素や1,3-βグルカナーゼで処理することにより,細胞壁マトリックス要素が分解されてその強度が弱まる。フシナシミドロにおいてもこれらの処理が,細胞壁構造に与える影響を調べる。
|
Research Products
(3 results)