2017 Fiscal Year Research-status Report
メラトニンによる加齢性記憶障害改善の分子機構の解明
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16K07434
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
松本 幸久 東京医科歯科大学, 教養部, 助教 (60451613)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | メラトニン / 加齢性記憶障害 / 長期記憶 / フタホシコオロギ |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢性記憶障害はヒトを含む様々な動物で見られる現象である。代表者は、昆虫の中でも高い学習能力を持つフタホシコオロギ(以下コオロギ)において長期記憶だけに加齢性記憶障害がみられることを発見し、抗酸化物質であるメラトニンがその加齢性記憶障害を改善することを報告した。ただしその作用機序は全く分かっていない。本研究の目的は、行動薬理、LCMSによる質量分析を用いて、コオロギの長期記憶形成過程におけるメラトニンの作用機序およびメラトニンによる加齢性記憶障害改善の神経分子機構を明らかにすることである。 本研究の初年度の研究により、これまで機能が全く分かっていなかったメラトニン脳内代謝産物のN-acetyl-5-methoxykynuramine (AMK)が、メラトニンよりも低濃度で加齢コオロギの加齢性記憶障害を改善したり、若齢コオロギの長期記憶を誘導したりできることが分かった。様々な動物においてメラトニンは生体リズムの調節にかかわることが知られているが、コオロギの日内リズムにおけるメラトニンやAMKの働きについては全く分かっていない。そこで本研究2年目において、コオロギの長期記憶形成能や内在性メラトニン、AMKが日内リズムにどのような影響をうけるかを調べた。まず若齢コオロギにおいて、明期と暗期において訓練回数と長期記憶形成の関係を調べたところ、暗期の方が明期よりも少ない訓練回数で長期記憶を形成できることが分かった。次に、メラトニンやAMKによる長期記憶の誘導効果が薬物投与時刻により異なるかどうかを調べたところ、メラトニンとAMKのどちらも暗期の方が明期よりも低濃度で長期記憶を誘導できることが分かった。以上の結果から、コオロギの長期記憶形成能には暗期の方が明期よりもより高いという日内変化が存在し、それにはメラトニン脳内代謝産物のAMKが関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究2年目において、日内リズムと長期記憶形成能、および内在性メラトニン、AMKとの関連性を、行動薬理実験とLCMSによる定量分析実験で調べた。「日内リズムと長期記憶形成能の関係」を調べる実験では、若齢コオロギを用いて明期と暗期における訓練回数と長期記憶形成の関係を調べたところ、暗期の方が明期よりも少ない訓練回数で長期記憶を形成できた(暗期2回、明期4回)。さらに飼育環境の温度を低くして、活動リズムを夜行性から昼行性に逆転させたコオロギにおいても同様に、長期記憶形成能は暗期の方が明期よりも高いことが分かった。次に、「日内リズムと外因性メラトニン、AMKによる長期記憶誘導効果との関係」を調べる実験では、メラトニンやAMKによる長期記憶の誘導効果が薬物投与時刻により異なるかどうかを調べたところ、メラトニンとAMKのどちらも暗期の方が明期の10分の1以下の低濃度で長期記憶を誘導できることが分かった。さらに「日内リズムと内在性メラトニン、AMK量との関係」を調べる実験では、夜行性と昼行性のコオロギを用いて、明期と暗期における頭部のメラトニン、AMK量をLCMSで調べた結果、有意差はなかったがいずれも暗期の方が高い傾向がみられた。以上の結果はコオロギの長期記憶形成能には日内変化が存在し、それにはメラトニン脳内代謝産物のAMKが関与していることを示唆するものである。AMKが記憶能力の日内変動に関わるという結果は全ての動物種において初めての知見である。以上のことから、本年度の達成度を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究最終年の本年度は「訓練回数依存的にメラトニンならびにAMKが脳内で放出されて長期記憶が形成される」という代表者の作業仮説を検証するため、以下の実験をLCMSやリアルタイムPCR及び行動薬理学的手法を用いて遂行する。 実験1)脳内のメラトニンレベルが訓練依存的に増加するかの検証実験:上記の作業仮説を検証するために、匂いと水の連合学習訓練の1回訓練、4回訓練を行い、その後の任意の時間に脳を取り出し、LCMSでメラトニン量を測定する。仮説が正しければ、LTMを形成する4回訓練では脳内のメラトニン量(またはAMK量)が、1回訓練と比べて多くなると予測される。 実験2)若齢コオロギと加齢コオロギのメラトニン関連物質の脳内量の比較:メラトニンおよびその関連物質(メラトニン前駆物質のセロトニン、N-アセチルセロトニン;メラトニン代謝産物のAFMK、6-HMなど)について、脳における通常の分泌量が加齢に伴い変動するかを調べるために、若齢コオロギと加齢コオロギの脳をLCMSで解析し比較する。 実験3) 加齢コオロギの高次学習に対するメラトニンの効果:代表者らはコオロギが状況依存的学習、二次条件付け、感覚的事前条件付け、阻止と隠蔽などの高次学習ができることを見出しているが、これら高次学習の加齢による影響は全く分かっていない。「高次学習」に対する加齢の影響を調べるために、加齢コオロギにこれらの高次学習を行い、LTMを含む学習と記憶の各相のスコアを若齢学習のそれと比較する。加齢コオロギにおいて記憶障害が見られた場合、メラトニンを経口または血中投与した加齢コオロギでも同様の訓練を行い、連合学習と同様にAMIが予防・改善されるのかどうかを調べる。
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Causes of Carryover |
【次年度使用額が生じた理由】 当初は2年目に「行動薬理実験」と「LCMSによる定量解析実験」を行う予定であったが、「行動薬理実験」で予想以上に興味深い結果が出たため2年目は主に「行動薬理実験」に時間を割いた。その結果「LCMSによる定量解析実験」を最終年度に遂行することにし、LCMS実験に必要な物品(実体顕微鏡、カラム)に使用する予定の金額(約30万円)を最終年度に使用することにした。 【使用計画】 「LCMSによる定量解析実験」に必要な物品(実体顕微鏡、逆相カラム、バイアル瓶など)を購入する予定である。
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Research Products
(13 results)