2018 Fiscal Year Research-status Report
社会性昆虫クロオオアリの巣仲間認識機構の神経生物学的研究
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16K07446
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
横張 文男 福岡大学, 理学部, 非常勤講師 (20117287)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 英博 福岡大学, 理学部, 助教 (90535139)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クロオオアリ / 嗅覚 / 巣仲間識別 / 電気生理学 / 前大脳 / 抗体染色 / 神経伝達物質 / 触角葉 |
Outline of Annual Research Achievements |
クロオオアリは体表炭化水素18種の組成比の違いによって巣仲間認識を行っていることが示さている。体表炭化水素は触角の錐状感覚子で受容され、巣仲間と非巣仲間の体表炭化水素に対する応答が異なると報告されている(Ozaki et al. 2005、Sharma et al. 2015)。しかし、これらの報告は、この感覚子にある150本に及ぶ感覚ニューロンを区別せずに全体の応答パターンに基づいたものである。我々は体表炭化水素18種それぞれに対する応答を明らかにすることが重要と考え、ニューロン毎にその応答特性を明らかにした。 23本の感覚子から匂い応答を記録することに成功し、273個の感覚ニューロン毎の各匂い刺激に対する応答強度の相関値をもとに分類を行った結果、感覚ニューロンは7つのグループに分けられた。この結果をまとめた論文に現在執筆中である。 2018年度にはさらに巣仲間識別を行う雌にのみ存在する性特異的な触角葉糸球体群(T6糸球体群)から抗体染色などを行って巣仲間認識に関わる中枢神経神経経路を調べた。T6糸球体から伸びる投射ニューロンは前大脳傘部の唇部の外側領域(lip-Ⅰ)に終末していた。唇部の外側領域は、他の嗅覚情報の処理系と独立しており、この領域は巣仲間識別を行う雌アリと働きアリにのみ存在する。T6糸球体群にはGABA、オクトパミン、FMRF-amideの3種類の神経伝達物質を用いるニューロンがあった。キノコ体傘部の唇部の外側領域ではGABAとオクトパミン抗体で強く染色され、わずかながらドーパミン、FMRF-amide、GLW-amideの5種類の神経伝達物質あるいは神経修飾物質で染色されるニューロンの分布がみられた。これらのニューロンの分布パターンの違いから各々のニューロンの機能的役割についてクロオオアリの巣仲間識別行動と関連付けて考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
巣仲間識別に関わる体表炭化水素を受容する感覚子からインパルス応答を記録し、個々のニューロン別にその応答特性を明らかし、受容細胞の分類まで行うことができ、クロオオアリの巣仲間識別に関わる体表炭化水素受容の様相を詳細に明らかにでき、従来の他の研究者の研究を大きく超えることができたと思う。しかしながら、一昨年開発した装置であるガスクロマトグラフ-・EAG測定装置は、ガスクロマトグラフ-が旧型の装置でその検出器の感度が不十分で予定していた研究はできなかったが、これ以外の主な研究はほぼ予定通りに勧めることができた。現在、巣仲間識別の関わる触角上の錐状感覚子の感覚ニューロンの応答に関する論文を現在執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
もともと本研究は2018年度で終了する予定であったが、巣仲間識別に関わる触角錐状感覚子の感覚ニューロンの応答に関する統計処理に手間取り、論文執筆が予定期間内に投稿ができなかったために、執行期間を1年延長していただいた。ガスクロマトグラフ-・EAG測定装置の改良に必要な経費が調達できないため、このガスクロマトグラフ-・EAGに関わる研究は断念した。2019年度は論文執筆を行う。
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Causes of Carryover |
2018年度までの研究では、巣仲間認識機構に関わる触角錐状感覚子に内在する嗅受容細胞からのインパルス応答の記録と各受容細胞の応答スペクトラの明らかにすることに成功したが、各受容細胞の応答スペクトラに基づく統計的分類に手間取った。そのため、現在、論文を準備中であるが、その度内投稿が間に合わなくなり、投稿料を次年度払いにせざるをえない。そのための経費を2019年度に残した。
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