2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K07455
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
小野 教夫 国立研究開発法人理化学研究所, 平野染色体ダイナミクス研究室, 専任研究員 (20291172)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | コンデンシンII / 染色体軸 / クロマチン / 再組織化 / HEATリピート / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
コンデンシンIとIIは分裂期染色体の構築に中心的な役割をもつタンパク質複合体であり、トポイソメラーゼIIα(トポII)とともに姉妹染色分体の縦軸に集中して局在する。しかし、こうした軸状構造(染色体軸)の形成機構や、染色体構築への関与については不明な点が多い。そこで申請者らは、染色体軸の物理化学的特性を調べる目的で、カバーグラス上のHeLa細胞を直接バッファーで処理して染色体の構造を可逆的に変換する実験系を確立した(sodium chloride-induced chromosome conversion [SCC] assay)。この実験系では、低塩濃度下でMg2+をキレートすることで大きく膨潤したクロマチンと染色体軸(ステップ1)を、次の処理に用いるバッファーのNaCl濃度に依存して特徴的な形態に変換することができる(ステップ2)。このうち生理的塩濃度に近い100 mM NaClで処理した時、クロマチンは元の中期染色体に近い形態に回復し、コンデンシンIとII、トポIIによる軸構造が再組織化される。 今年度はsiRNA knockdownとSCC assayを組み合わせて、クロマチンと染色体軸の可逆的再組織化におけるコンデンシンIとコンデンシンII、トポII、そしてコヒーシンの役割を検討した。その結果、100 mM NaCl処理によるクロマチン形態の適切な回復はコンデンシンIIによる軸の再組織化と密接に関連していた一方で、コンデンシンIによる軸はクロマチンの再組織化への貢献は低かった。さらに、トポIIおよびコヒーシンはクロマチン形態の回復と染色体軸の再組織化に殆ど貢献していなかった。この再組織化は特殊な条件下ではあるものの、コンデンシンIIによる染色体軸の適切な組織化が分裂期染色体の形態と密接に関連していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では申請当初、次の3つの到達目標を設定した。(1)染色体の再組織化におけるコンデンシン、トポ II およびコヒーシンの役割を明らかにする。(2)再組織化されたクロマチン構造の特徴を見いだし、それが細胞周期各ステージでどのように変化するのかを明らかにする。(3) 染色体形態変化の定量的解析法を確立するとともに、再組織化における染色体軸の分子特性を明らかにする。 今年度は、クロマチン構造の回復にはコンデンシンIIによる染色体軸の再組織化と密接に関連する一方、コンデンシンIやトポII、コヒーシンの貢献は低いことが解明された。これは、(1)の到達目標が明確にクリアされたことを示す。また、今後の研究の準備も順調であり、再組織化クロマチンにおける免疫染色と、染色体形態変化の定量的解析(機械学習)の解析は既に進行しており成果が集積しつつある。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、コンデンシンIIによる染色体軸の再組織化がクロマチン形態の回復と密接に関連していることが分かった。今後は、回復したクロマチンの詳細な構造と、染色体軸の再組織化の分子メカニズムの解明を目指して以下の研究を進める。 最初に、この実験系で回復したクロマチンのヒストン修飾パターンや、セントロメアの構造を免疫染色によって明らかにする。さらに、特定部位を検出するDNAプローブをもちいたFISHによる相対的位置関係の変化を解析する。これらの実験で、コンデンシンIIによる軸がどのようなクロマチン構造を回復させるのかを明らかにする。 一方、分裂期染色体のクロマチンと染色体軸の回復・再組織化におけるトポIIとコヒーシンの貢献は見いだされなかった。しかし、これらの因子は間期から核内に局在することが知られている。そこで、申請者が確立したSCC assayを間期核に適用し、そのクロマチンがどのように変化するのか、その変化にトポIIとコヒーシンが関与するのかを解明する。 また、今回観察されたクロマチンと染色体軸の形態は多様であり、その分類と評価は容易ではなかった。そこで、機械学習による染色体形態解析を導入する。この解析により、より客観的な指標を基に、SCC assayにおける各因子の貢献が評価され、コンデンシンIとII、トポIIのクロマチン形態と染色体軸の回復と再組織化への貢献の違いを定量的に示すことを目指す。 さらに染色体軸の物理化学的特性を考えたとき、コンデンシン複合体にはHEAT リピートを持つサブユニットが2つ含まれるため、SCC assayにおけるコンデンシンIIの軸への集合にHEAT リピートを介した疎水性相互作用が関連している可能性がある。この仮説を検証するため、両親媒性の溶媒を用いて疎水的環境を撹乱した場合に再組織化がどのように阻害されるのかを解析する。
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Causes of Carryover |
本計画のアッセイの適正条件を決めるための実験の進展が早く、条件検討において使用する予定だったsiRNAオリゴや免疫染色に使用する抗体が当初計画よりも少なくなったためである。同時に細胞培養に係る経費も節減された。しかし、その分は今後のさらなる進展のため、様々な因子の影響を検討と新たな解析方法のセットアップに必要な費用であると考え、次年度使用額とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究に用いるsiRNAオリゴや免疫染色に使用する抗体を購入する。また、機械学習に関連したPCや周辺機器の費用にも充てる。また、研究の進展によって、HeLa細胞以外の細胞株をもちいた実験のため、培地や血清、細胞添加物に係る費用として充てる予定である。また、siRNA以外のタンパク質除去による細胞周期のステージに特異的な解析に進展する可能性があり、これらの実験のために使用する計画である。
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Research Products
(7 results)