2017 Fiscal Year Research-status Report
退化的な胞子体をもつコケ植物の形態進化:蘚類センボンゴケ科を例に
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16K07481
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坪田 博美 広島大学, 理学研究科, 准教授 (10332800)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | センボンゴケ科 / 胞子体 / 閉鎖果 / セン類 / 系統解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
コケ植物セン類の胞子体の形態進化に関連して,平成28年度に準じて研究を遂行した.今年度は平成28年度の時点で入手できていなかった地域を中心に材料の収集を進めるとともに,系統マーカーの塩基配列の決定をすすめた.既存の標準マーカーである葉緑体rbcLとrps4遺伝子については配列の決定を進めた.核BRK1については増幅ができていない.葉緑体trnM-V遺伝子間領域についてはユニバーサルプライマーの設計ができたため,一部のサンプルについて配列を決定することができた.得られた塩基配列にもとづいた系統解析を行うとともに,形態データの取得をすすめた.これらの結果にもとづいて形態データの系統樹上への再配置を行った.また,前年度得られた胞子からの培養株の一部についてコンタミネーションがないものが得られたため,核マーカーにかわるものとして培養株を用いて次世代シークエンサを用いた実験を行った.MIG-seq法を用いた種内多型の探索を試みた.現時点では結果が得られたサンプル数に限りがあり,年度末に行った実験のためデータ解析も十分ではないが,多型を得られる可能性があることが明らかになった.研究で得られたこれらの知見の一部を中国深センで開催された国際学会で口頭発表するとともに,その他についても国内学会で発表した.また,専門誌で論文投稿を行い,1報の論文発表を行うとともに,3月末の時点で審査中のものが1報ある.調査の際に得られたサンプルに関する報告や研究内容に関する報告も専門誌および学内研究報告を通じて行った.一部の研究成果で公開可能なものについては,広島大学デジタル自然史博物館等で公開した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概略に示した内容に加えて述べるべき進捗状況として以下のものがあげられる.平成28年度に引きつづき,野外調査により当初の予定よりも効率よくサンプルが得られている.また,系統マーカーについては核のマーカーはまだ増幅に成功していないが,葉緑体についてはユニバーサルプライマーでの増幅が良好で,配列決定も予定通り進んでいる.核マーカーについてはその代替策としてMIG-seq法を使って情報を補う方向で検討する.系統関係についてはサンプルを増やして解析を行ったが,前年度に得られている結果と概ね一致している.これらの結果について論文投稿も順次進めており,発表できたものが1報,審査中のものが1報存在する.雑種判定のため系統マーカーによる研究に加えて,研究の計画段階では予定になかった次世代シークエンサを使った多型の検出にも着手でき,DNA抽出法やサンプルの調整について課題も見つかっているため,次年度改善を行いたい.一部の研究成果で公開可能なものについては,広島大学デジタル自然史博物館等で公開できた.これらのことを勘案すると,研究全体としては概ね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの年度では当初の研究実施計画をおおよそ達成できている.このため,平成30年度については当初の研究実施計画に準じて研究の遂行が可能である.平成30年度は最終年度であるため,入手済みのサンプルについてマーカーの塩基配列の決定を進めるとともに,形態測定を完了させる.海外のサンプルについては生物多様性条約の関係で入手が難しくなったため,既存のサンプルを主体として研究を進める.得られたデータにもとづいて系統解析を行うとともに,形態情報の系統樹上への再配置や統計的解析を行う.平成28年度の研究の結果明らかになっている胞子体の発達に関する時期的な種毎の差異について,もう一年間かけて前年度のデータの補足を行う.最終的にセンボンゴケ科全体の分類体系の再構築を目指すとともに,閉鎖果種の起源について考察を行う.また,平成28年度に株が確立できたため,これを利用した研究も進める予定である.これらの研究の成果については,引きつづき順次公表に向けた論文の投稿や広島大学デジタル自然史博物館等での公開を進める.
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Causes of Carryover |
当初予定していなかった資金が獲得できたことと,学内の機材を用いた事による経費の減少の影響と,購入の際の単価の変動により無駄が抑えられたため,当該年度ではなく次年度分として有効に利用したい.
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Remarks |
広島大学デジタル自然史博物館の中で,研究成果の一部について公開可能な部分について内容を反映させて公開した.
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